全ては茶番
オルフェが見たものを、キコリは真正面から見た。
「な、なんだ……?」
それは、凄まじい速度で元の姿に戻っていく次元城。与えたダメージが巻き戻るかのように再生していく。しかし、そんな機能はレルヴァの報告にもなかったはずで。レルヴァたちから驚愕の思考が伝わってくる。
「再生機能……ってことか!? だが……!」
ギガントブレイカーで塵にしてしまえば、流石に再生できないだろう。そう考え魔法の構築を始めようとした瞬間。「待て」と次元城から声が聞こえてくる。それは……ドルヴァン七世の声では、ない。
『お前、見覚えあるぞ。ニールゲンで会った奴だな』
「この声は……アサトか?」
『そうだ。どうやらコレを壊そうとしてるみたいだが、邪魔するな。俺が地球に帰る手段なんだ……無駄な魔力を使わせるな』
「チキュウ……お前が来たっていう異世界だな。だがどうして死んだお前が喋ってる。ドルヴァン七世はどうした」
『ドルヴァ……? ああ、殺した。あのオッサンは何も分かってない。これは異世界渡航を可能にする装置だ。具体的には侵略装置だが、その辺は俺には興味がない。地球に帰れさえすれば、こんなもんは破壊したっていい』
「……」
考える。キコリは、考える。アサトが生きていた理由はさておき、言っていることに論理の破綻はない。倫理の破綻はあっても、論理が破綻していないというのは重要だ。
少なくとも、アサトは以前会ったときと同じく「元の世界に帰るため」に動いている。ドルヴァン七世を殺して次元城を乗っ取ったのも、その一環だろう。
そこまでは別にいい。どうせアサトを殺した……死んでいたはずだが……まあさておき、ドルヴァン七世もアサトと敵対関係にあったのだ。なら、どちらかは死ぬ定めだっただろう。そこは別にキコリはどうこう言うつもりはない。
ないが……もう1つ、聞くことがあった。
「王都のドワーフを皆殺しにしたのは、何故だ?」
『魔力が足りなかったからだ。この次元城は自分で魔力を生成可能だが、最大値は食わせた燃料に比例する。だから『吸収』した。これでいいか?』
「ああ、いい。それで?」
『ん? なんだよ。俺は忙しい。いつまでもお喋りには』
「それで、足りたのか? 魔力は」
無言。それが答え。つまり、この問答はお互いにとって。
『足りねえな。お前のも、くれよ。それで足りる気がするんだ』
「やれ」
ズドン、と。次元城から破壊音が響く。それはこの問答の間に潜入していたレルヴァによるもので。一瞬広がりかけた波動は、この問答の間にアサトが静かに起動準備をして発動させたもの。
そう、つまり。お互いに一切お互いを信用していなかったのだ。全ては茶番。ただ、確信を得るためだけの。
キコリは、アサトが敵だと確信するための。
アサトは、キコリを殺せば帰るだけのエネルギーを得られると確信するための。
だからこそ、この戦いの結末は……どちらかの死しか、有り得ない。
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