お前のエゴは
キコリは、自分のエゴを知っている。それは先程「満たされた」からだ。
オルフェの自分への気持ちを感じたから。これ以上ないほどに強く、強く感じたからだ。
愛されたい。そのエゴを肯定し、満たしてくれる。それはキコリの欠けていた部分をある程度満たし、だからこそシャルシャーンを許せた。
ドラゴンになる「理由」がなかったなら。両親に愛されていたのなら。シャルシャーンが「もしも」それを崩壊に導くようにしていたならば、それは殴る理由になりえたのだ。しかし、どうにもそうではない。だからこそ、キコリはシャルシャーンを殴ったりはしない。
……まあ、殴ったところでシャルシャーンはなにも感じはしないだろうが。
キコリも相当に壊れているしドラゴンは皆何処か壊れているが、シャルシャーンの壊れっぷりは群を抜いている。
何故なら……今こうしてキコリが満たされていることすら、シャルシャーンの計算であるだろうからだ。
「どうせ、この状況も計算だろう?」
「何がだい?」
「俺がゼルベクトと戦いに行くように、計算しただろう?」
アリアか、オルフェか。シャルシャーンとしてはどちらでも良かったはずだ。恐らくはどちらと共にあることを選んでも、シャルシャーンはそのためにキコリがゼルベクトに立ち向かうまでを計算していたはずだ。
「だけど、それはいいんだ。俺が選んだ道だ」
「ふうん。それで?」
キコリはそこでシャルシャーンの胸倉を掴む。少女の姿をしていようと関係はない。此処で、言わなければならないことがあるからだ。
「これ以上オルフェを巻き込もうとするなよ。そのときは……俺はお前の敵になる」
「ははは、なるほど? それは怖いなあ」
「笑うな。俺が本気かどうかくらい分かるはずだろ」
キコリが腕に力を込めたとき。シャルシャーンの顔から表情が抜け落ち、瞳に獰猛な色が宿る。それはシャルシャーンが以前アイアースに攻撃していたときと同じ……いや、それよりも余程獰猛な色だ。あれでもまだ演技していた。そう思わせる、凄まじく獰猛な色だ。
「いい加減離せよ。ボクは君の癇癪に付き合っている暇はないんだ」
「暇なら幾らでもあるだろ。お前じゃないお前が幾らでもいるんだから。此処で『お前1人』が俺に付き合ったところで、何の支障があるっていうんだ?」
そうだ。『不在のシャルシャーン』はそういうドラゴンだ。だからこそ、此処でキコリと会話している程度は何の問題もないはずだ。
だというのに、シャルシャーンがキレかけているのは……つまり、エゴに関する問題であるということなのだ。
「そうか、エゴか。お前のエゴは……『管理』ってとこか?」
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