俺たちが今警戒すべきは
そう、伝説などと呼ばれるような時代から世界を見守り適切に状況を調整していく。シャルシャーンはそういうことをやってきた。驚くべきことだ、尊敬されるべきことだ。
しかし、しかしだ。そんなものを使命感だけで出来るものだろうか?
竜神に会ったことがあれば分かろうというものだ。アレは享楽的で、大神と比べると大分緩い。
そして神々は前回のゼルベクト侵攻の後始末をするのに忙しく、僅かな例外を除いてシャルシャーンに任せている状況だ。
長い……とても長い時間だ。キコリは自分であれば耐えられないだろうと思う。
たとえシャルシャーンのように無数の自分がいたところで同じだろう。何処かで限界が来るはずだ。
あるいはそれがシャルシャーンの歪みと考えることもできるが……エゴであると考えた方が簡単だ。
「俺たちドラゴンがエゴに縛られているなら、お前だって同じだ。自分の思う通りに流れを管理する……そんなところだろう? それで満たされるから、お前はずっと模範的なドラゴンなんだ」
そう、世界の流れを正しく保つ……それが自身のエゴと合致しているのであれば、そんな果てない時間の義務にも耐えられる。いや、満足していられる。満たされているのだから。
そのどうしようもない歪みも、エゴであるからこそ許容できる。
「破綻者である俺たちドラゴンは、破綻しているからこそ最強を許されてる。エゴが、俺たちを世界の安定へと導くから。いや、もしかするとドラゴンの資格、それすらも……」
「ああ、君の言う通りだ」
シャルシャーンの凶暴性を帯びた瞳が冷静な色を取り戻していく。しかしそれは同時に、計算高いものへと変わっていく。恐らくはこれが本性なのだと思える、キコリをモノとしか考えていない目だ。
「ボクはそれにこそ喜びを感じる。世界が正常に運行されることに、その流れを管理できることにこそ喜びを感じる。世界最初の純粋なドラゴンだからこそ、それを望まれたからこそボクのエゴもそうであるんだよ。それで? それを暴いて、今後何かが変わるのかい?」
「変わるさ」
「へえ?」
「少なくとも妙なことは考えていないと『信用』できる。俺たちが今警戒すべきはシャルシャーン。お前がゼルベクトの力に影響されていないことだから」
「だな」
その言葉にアイアースが頷き、キコリとシャルシャーンを引き剝がして、そのまま扉を開けて家の外にぶん投げる。
「ま、そういうことだからよ。ゼルベクトがくる気配があったら来いや。ついでに場所も探しとけ」
そう言い放つと、アイアースは扉を閉めて。
「俺様がアイツ嫌いな理由……分かるだろ?」
放つそんな言葉に……全員が頷くしかなかったのだった。
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