嫌な、予感がするな
音の聞こえてくる方向へとキコリは走る。
戦闘音と悲鳴、破壊音。そして……辿り着いた時。
状況は、すでに終わっていた。
「……ハッ、くだらねえ敵だったな」
そこには、剣を振り抜いたアサトとかいう男の姿があった。
近くには斬り倒された巨大なネズミ型モンスターの死骸が転がっている。
見た事のないモンスターだ。アリアの家の本に載っていた「ビッグラット」に多少似ている……だろうか?
だがビッグラットには角など生えてはいない。異常進化体……なのだろうか。
「ん? お前は……」
剣を鞘に納めていたアサトは、キコリたちに気付き振り向く。
「コイツは俺が倒した。残念だったな」
「いや、それはいい。悲鳴が聞こえたから来ただけだ」
「あー、なるほどな。それに関しても残念だったな」
アサトが顎で示した先……そこには焦げた冒険者の死体が倒れている。
魔法か何かで焼かれた……のだろうか? 先程の破壊音が関係しているのは間違いないだろう。
「電撃を放つネズミだ。異常進化体ってやつだろうな」
アサトは言いながら魔石を取り出し……「フン」と声をあげる。
「小せえ魔石だな。ま、このくらいの雑魚なら妥当か」
アサトは言い放つと、そのまま踵を返して何処かに去ろうとして……「お、そうだ」と思いついたように振り向き、剣を抜く。その瞬間には、カッと軽い音を立ててネズミ型モンスターの角が切られて地面に転がっていた。
「一応持って帰って報告しねえとな。あとの素材は好きにしていいぜ」
そう言い残すと、今度こそ去っていくが……その姿が消えた辺りでオルフェは軽く舌打ちする。
「あー……罵倒しないのってほんっとストレスね」
「ハハ……助かるよ」
どうにも上から目線が凄い男だから、オルフェがいつもの調子で喧嘩を売ればどういう態度に出るか分からない。だからこそ黙ってくれていたオルフェにキコリは本当に有難く思うが……そんなアサトのことはひとまず忘れて、キコリはネズミ型モンスターの死骸に視線を向ける。
「異常進化体……だとは思うけど、そもそも此処にビッグラットなんか居たか……?」
ビッグラット。人間のサイズほどのネズミ型モンスターだが、この辺りで出たという話は聞いたこともない。
ビッグラットの異常進化体が出るならば当然、通常のビッグラットが居ないとおかしいということになる。
だが居ない。それは非常におかしなことなのだ。言ってみれば常識ですらあるのだが、その常識が覆されようとしている。
「……嫌な、予感がするな」
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