何のつもりはこっちの台詞だ
衛兵の詰め所は大きな建物で、しかしキコリと……ついでにオルフェが入れられた取調室は、驚くほどに狭かった。
「で? なんで町中で騒ぎを起こしたんだ」
「だから、ケンカを売ってきたのも武器を出したのも向こうです。武器を渡したのも周りの店の人です」
すでに何度も説明したことをキコリは繰り返すが、サイ獣人の衛兵はハッと鼻で笑う。
「それを信じろと? 周囲の誰もがお前に殺されそうになったと証言してる。お前が正しいと言ってるのはお前と、そこの妖精だけだ」
「俺は武器も抜いちゃいません」
「……お前の鎧だがな。何かとんでもないマジックアイテムだってことしか分からん」
「それが何か」
「そんな代物、それだけで並の武器に勝ると俺は思うがね」
「詭弁です」
「単なる事実の羅列だ」
話にならない。キコリが悪いという前提で話をしている上に、その場にいた獣人の全てが敵だ。
これでは、あまりにも。
オルフェはもうずっとキレているが、手を出さないのはキコリが止めているからだろう。
「それと、お前の持っていたペンダントだがな」
キコリが没収されていたペンダントのうちの1つを、衛兵は机に置く。
1つはセイムズ防衛伯の家紋のペンダントだが……。
もう1つの銀級冒険者のペンダントがない。
「まず、今回の事件を受けて銀級資格は剝奪となった。もう1度青銅級からやり直せ」
「は!?」
言いながら衛兵は青銅のペンダントを机の上に置く。
大分使い古した感のある、そんなペンダントだ。
「それと、今回の騒乱罪に対する罰だ。本来なら労働刑の後、追放だが……今回は罰金刑になる」
「何を言って……」
「普人の間でどれだけチヤホヤされていたか知らんが、此処は獣人の国だ。傍若無人が許されると思うなよ」
「だから、俺は被害者でしょう!」
「そう言ってるのはお前達だけなんだよ。罰金は賠償額と合わせ4億7300万イエンだ。お前が死んでも賠償はお前を派遣した普人の国の防衛伯に請求される。分かったな」
「無茶苦茶だ!」
立ち上がりかけたキコリの横に、剣を抜いた別の衛兵が立つ。
「勝手に立つな、座れ」
「……!」
相手は権力側だ。こちらの持つカードを理解した上でこう対応してくるなら、キコリには何も出来ない。
だが……そんな額、払えるはずもない。
「もういいでしょ、キコリ。こいつら、ブッ殺そ?」
オルフェがその手に火球を生み出して。
「制圧しろ! ソレは殺しても構わん!」
「……!」
ああ、もうダメだ。
もう人間の倫理ではどうしようもない。
諦めに似た境地と、身体の奥からせり上がってくるような殺意に、キコリは自分の首筋に突き付けられている剣を。
「お、お待ちくださ……げあっ!」
外から聞こえてくる、打撃音と何かが叩きつけられる音。
近づいてくるその音に、全員の動きが止まって。
ガアン、と取調室の扉が蹴り破られキコリに剣を突き付けていた衛兵が吹っ飛ぶ。
「儂が居ない間に、随分とくだらんことをしていたようだ」
豪奢な鎧を着込んだ、蜥蜴そのものな頭部を持つ男……蜥蜴獣人は、キコリに今まで散々言っていた衛兵を睨みつける。
「ぼ、防衛伯閣下! な、ななな……何のおつもりですか!」
「何のつもりはこっちの台詞だ。なあ?」
籠手をつけたその手が衛兵の顔面を掴み、ミシミシと音を立てていた。
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