可能性
「……剣、か」
かつて「生きている町」で包丁やらなんやらに襲われたことがあったが、こうした場所で剣なんかあると身構えてしまう。
じっと見ても襲ってこないから普通の……こんな場所にあるのを「普通」といってよいかはさておいて、ただの剣であるのだろう。飾りなのか実用品なのかはキコリにはイマイチ判断できないが、然程良いものではなさそうだ。
「なんだオイ。そんなもんが欲しいのか?」
「いや。前にこういうとこにある武器に襲われたからさ。念のためだ」
「ほー」
キコリの横をすり抜け、アイアースの投げた三叉の槍が飾られていた剣と盾を一気に破壊し壁に突き刺さる。
「そんじゃ、これで解決だ」
「乱暴だなあ……暴力は最後の手段だろ」
「何言ってんだ。暴力は最初の手段に決まってんだろ」
言いながら、アイアースは三叉の槍を壁から引き抜くが、そんなアイアースにキコリは小さく溜息をつく。
「まあ、そこは互いに譲歩しあうしかないな」
「ほー。じゃあ今度は壊す前に一言声かけてやるよ」
「そりゃ有難いな」
ひとまず壊しても何か起こる気配はない。ならばある程度大胆に進んでも問題はないだろう。
キコリはそう判断し、何処へ向かうべきか視線を巡らせる。
周囲には幾つかの扉と階段。上の階は、ひとまず後回しでもいいだろう。
「……よし、まずは左の端の扉から行こう」
「好きにしろよ」
ひとまずの目標を見据え、歩きだすと……キコリを突如浮遊感が襲い、足元の床が消失したことに一瞬遅れて気付く。
「は!?」
落とし穴と化したそこの端を掴み、キコリは何とか落ちないままに這い上がる。
するとキコリの目の前で落とし穴がすうっと幻のように消えていくが、今のは幻覚でも何でもなく現実だった。ということは、今のは。
「魔法……か?」
「そうかもなあ」
「かもって。他に何があるんだ?」
キコリが問いかければ、アイアースはハッとつまらなさそうに笑う。
「知らねえよ。だがよぉ、人間どもがダンジョンとかって名付けたこの場所……俺様たちドラゴンですら把握できてねえ変化が続いてる。此処がその『変化した場所』じゃねえって保証もねえわな」
確かに……極めて敵対的なデモンモンスターのこともある。あれは大地の記憶がどうのとシャルシャーンは言っていたが、これもそうした変化の1つだとでもいうのだろうか?
「今の罠も大地の記憶とかいうのが生み出した『此処にかつてあったもの』って可能性があるわけか」
「さあて、そいつもどうかな……」
言葉を濁すアイアースだが、それ以上キコリが何を聞いても口を開くことはなく。
仕方なしに、キコリは扉に向かって歩いていく。
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