我々は君に期待している
僅かな金はある。神父に貰った路銀の残りだ。
しかしコレを使えば一文無し。
今の状況で使う気にはならなかった。
何しろ、何が必要になるか分からないのだ。
今使って必要な時に「金がない」では冗談抜きで命に関わる。
「……節約しなきゃ。余裕は、ないんだ」
言い聞かせるように歩き、キコリは門に辿り着く。
このニールゲンが防衛都市と呼ばれている所以。
すなわちモンスターの大群から人間を守る防衛線。
そこからモンスター溢れる「汚染地域」に繋がる唯一の門。
英雄門と呼ばれているそこに辿り着くと、冒険者と思わしき者達と、それ相手に商売している様々な露店があった。
「いらっしゃい、いらっしゃい! かのサンクトエル大聖堂で祝福した聖剣の数々! 今買わなきゃいつ買うっていうんだい!」
「最高品質のポーション、冒険者割引してますよー!」
明らかに必須と思われるものから怪しいものまで様々だ。
というか、聖剣はそんな露店で売るものなのだろうか?
前世の知識で言えば聖剣っていうのはもっと有難みのあるものだったはずだが……。
こんなところにまで「前世の知識による邪魔」が入り、キコリは思わず拳を握る。
余計な事を考えてはいけない、言ってはいけない。
それを改めて肝に銘じながら、キコリは歩く。
「解毒を使える神官募集! こっちは戦士と魔法士がいるぞ!」
「俺は西方都市アザガの勇士アハト! 俺と共に行く奴はいないか!」
「こちらレンジャーと神官です! 重戦士の方募集中ですー!」
一緒に汚染地域に向かう仲間を探している声が響く。
場合によっては声をかけられたりしているらしいが、キコリを呼び止める声は当然のようにない。
まあ、声をかけられても何の詐欺かと疑ってしまうが……。
「おっと、そこで止まってくれ。君は冒険者か? 冒険者証を見せてくれ」
門の出口まで辿り着くと、衛兵がキコリを制止する。
「はい、キコリといいます」
キコリが青銅の冒険者証を見せると、衛兵は頷きキコリをじっと見る。
「武器は……斧か。初心者だな?」
「はい、今日が初めてです」
「そうか。汚染地域は奥に行けば行くほど強いモンスターが出るが、相手も生き物だ。例外はある……分かるか?」
「此処なら安心は危ない、ってことですよね」
「その通りだ。門の近くに強力なモンスターが出る事もある。そしてその場合、安全のために門を閉じる事もある」
「警告は、してくれるんですか?」
「状況による。そんな暇がない場合もあるからな」
その時は甘んじて死ね、と。言外にそう言われた事をキコリは理解する。
しかし……それに反発したところで何の意味もないことも理解できていた。
「分かりました」
「うむ。では、良い冒険を。我々は君に期待している」
定型句でしかないだろうその台詞を受けて、キコリは門を潜る。
此処から先は死地。生き残るか、死ぬだけしかない……そんな場所だ。
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