まだ、甘かった
門を潜った先は、平原だった。
いや、元は森だったのかもしれない。
視線の先には森が広がっており、恐らくは防衛のために切り開いたのだろう。
そして、何より特徴的なのは。
「色んな草が生えてるな……」
雑草なのかどうかすらも今のキコリには分からないが、様々な種類の草が生えているのが分かる。
とはいえ、適当に採っても売れるのかどうかも分からない。
何よりも「余計な事をして面倒をかける奴」と思われるのは嫌だった。
「ニベ草、ニベ草……ないな」
探して、探して。それでもニベ草は見つからない。
「おかしいな、初心者依頼のはずだろ? なんでないんだ……」
「なんだお前、ニベ草探しか?」
「うわっ!?」
突然声をかけられて、キコリは思わず飛びのいてしまう。
どうやら自分に声をかけたらしい冒険者の男は、そんなキコリを見て笑っていた。
「驚きすぎだろ。で、お前新人だな? こんなとこでニベ草探してるんだから」
「え、ええ。まあ」
「此処にはないぞ。この辺は皆が最初に探すところだから、大体取りつくされてる」
「え……」
「それでも汚染地域には薬草の類も結構な頻度で生えるもんだが……分かるだろ? そんなのは生えてすぐに誰かが引っこ抜いていくってな」
確かに、考えてみればそうだ。冒険者はキコリだけじゃない。
比較的安全な場所の薬草なんて、誰もが持っていくに決まっている。
「ニベ草の採集は諦めたほうがいいってことですか」
「いや、そう悲観することもない。もっと奥に行けばモンスターの方が儲けが出るようになる。つまり、ニベ草なんか見つけても無視されるようになるってわけだ」
「それ、は」
「ああ、危ねえな。だがまあ、生きるにゃ危険もつきものってこった」
それじゃあな、と言いながら去っていく冒険者の男。
森の方へ消えていくその姿を見つめながら、キコリは背中から斧を降ろす。
「そうだ。俺は……まだ、甘かった」
冒険者として生きるとして決めたくせに、リスクを冒す覚悟がなかった。
あの奥に行かなければいけない。
今なら分かる。あの薬草採集の紙が印刷してあったのは……印刷する程に用意されているのは、この現実を教える為だったのだ。
ゴブリンに勝てない程度の冒険者など価値はないと。どうせ生きてはいけないと。
そう伝えるためのものだったのだ。
「やってやる。生きる為に……ゴブリンを、ぶっ殺してやる」
斧を構えて、森へと入っていく。
それは覚悟を決めた瞬間でもあり……キコリが命をチップに差し出した、その瞬間でもあった。
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