未だに失い続けている
そう、それはキコリが異世界でレルヴァと繋がることにより手に入れた能力だ。
キコリ本人、あるいはレルヴァの行った場所に転移のための通路を作ることができる。
『裂空のグラウザード』の能力と似たようなものとも言えるし、キコリは異世界は難しいとは言ったが出来ないとは言っていない。
しかしそういうことをさておいてもオルフェはキコリがこの技を使うのを見るのは初めてだ。
そして実際見てみると……キコリが人間をやめた後、加速度的に元のキコリとは違うものになっていっているのを確信していた。
人間のキコリの「名残」の1つであった魔力限界も、いつの間にか超えている。恐らくはレルヴァと繋がったことでそういった部分が拡張されたのだろうが、その先にあるものが何なのかはオルフェにも想像できない。しかし……根本の部分は変わっていない。なら、単純に出来ることが変わったに過ぎない。
そう考えながら、オルフェは頷きキコリと共に通路を潜っていく。すると……一瞬で坑道の中へと転移していく。
「へえ、凄いわねコレ……って、いやちょっと待って」
「どうしたんだ?」
「こんなもの使えるなら、ニールゲンに一瞬で行けたんじゃないの?」
言われて、キコリは「あー……」と困ったように頬を掻いて。オルフェにとっては衝撃的な一言を呟いた。
「なんか、出来ないんだ。理屈でいえば出来るはずなんだけど、ニールゲンに上手く繋がらない。たぶん、あの時の俺と今の俺が別だからなんだろうな」
「えっ……?」
「この技は、俺とレルヴァが行った場所に行ける。でも、今の俺はレルヴァと繋がる前の俺じゃない。だから、縁みたいなものが消えたんだろうな……」
「それでも、アンタはアンタでしょキコリ」
「そう信じてる。でも、たぶん人間だったキコリは全部消えた。そういうことなんだろうな」
未だにキコリは失い続けている。オルフェは、その事実をこれ以上ないくらいに知った。
強くなって、ドラゴンにまでなって。その過程で、色んなものを失い続けて。
それでもまだ、キコリは失っている。もはや、元の形すらも消えてしまうほどに。
そしてきっと、これからも失うのだろう。その流れをせき止めることは、きっと出来はしない。
「それでも、アタシは人間だった頃のアンタを覚えてるわよ」
「そうだな」
キコリは、そう言って微笑む。
「それでいいさ」
何も良くはない。しかし、オルフェにこれ以上言えることは何一つとしてない。だから、オルフェはこの会話を打ち切る。
「さ、この話は終わりよ」
「ああ。さっさとアサトを元の世界に送り返そう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます