そういう関係じゃないので

 翌日。イレーヌの言っていた通り、大規模なダンジョン探索依頼が冒険者ギルドから発令された。

 その中にはコボルト平原についての情報と、ワイバーンのいる区域へ侵入を控えるようにという一文も追加されていた。

 現在を迷宮化の安定期と仮定し、ダンジョンの地図を作ることを広く依頼したのだ。

 その成果は当然買い取られるが、幾つかの情報を照合し確定すれば、その区域の情報に関しては新規の買取が拒否される。

 つまり迅速な者ほど大きく稼げるということであり、当然多くの冒険者が大規模探索を行うべく準備を始めていた。

 防衛都市のどの店も、装備の新調や消耗品の購入などでごった返している。


「迷宮特需、か」

「何それ」

「迷宮が出来たことによって需要が増えてるだろ?」

「それって普段手ェ抜いてるってことじゃないの?」

「いや、それは……うーん、どうかな……」


 どうも完全に否定しきれずキコリは悩んでしまうが、どう反論してもオルフェは納得してくれそうにない。


「で、何か買うんでしょ? 何買うのよ」

「とりあえず全部かな……全部燃えたし」


 かなり痛い出費ではあるが、もうどうしようもない。

 とりあえず、マントはもう要らない気もする。

 この鎧を着ていると、そういうのを少し感じにくくなるようなのだ。


「あー、あれでしょ。あの干した果物とか木の実とか」

「まあ、そんなところだな」


 あと、そもそも荷物を入れる袋も買わないといけない。

 まずは雑貨店。そして食料品店へと回り、浄化の水袋も保存食も購入する。

 大きくお金を稼げているからこそ買い直しも出来るが、これがこの街に来たばかりの頃だったら泣いていたかもしれない。


「人間、増えるわけだわ。全部の役割分担してんだもの」

「まあ、出来る事も個人差あるしなあ」

「その個人差が大きすぎでしょ」

「そうかな」

「そうよ」


 言いあいながら歩いていると、突然「なあ」と声をかけられる。

 振り向くと、そこにいたのは……冒険者の一団だ。

 正直、見覚えはない。


「ほんとに妖精連れてるんだな……」

「そんなことできるとは思わなかったよ」


 何やら声をかけてきた男の仲間たちがボソボソと囁きあっているが、オルフェが見る見るうちに不機嫌になっているのがよく分かる。


「俺たちはパーティ『白銀の剣』だ。お前、俺たちと」

「あ、お断りします」


 キコリはそう言うと、すぐに身を翻して。


「なっ……おい妖精使い!」

「そういう関係じゃないので。その辺り誤解された方とはやっていけないです」


 そう言うと、キコリは防衛伯のペンダントを示してみせる。


「その汚ねえペンダントが何ぐばっ」


 言いかけた男の顔面を、リーダーらしき男が裏拳で黙らせる。


「そうか、悪かったな」

「いいえ、それでは」


 やはり防衛伯のペンダントは威力がある。

 そう考え歩き去るキコリの耳に「たまたまツイてただけで調子に乗りやがって……」という声が聞こえてくる。


「やっぱ人間ってダメねー」


 そんなオルフェの呆れたような声に……キコリは、フォローする言葉が一切浮かばなかった。

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