私たちの救世主だ

 魔王トールが死んだ、その直後。従属下にあった全てのモンスターからヘドロのような魔力が流れ出て溶けて消えていった。

 それはトールの強大な魔力の影響下にあった何よりの証であり、その「従属」の効果が切れた証明でもあった。

 だからこそレルヴァたちはそれぞれが乗っ取ったモンスターの中から出てキコリの下へと帰っていく。

 命令をこなした以上、もう乗っ取っている理由が一切なかったからだが……黒いレルヴァたちが一斉にキコリの下へ戻っていく姿は、マトモに意識を保っている者がいれば中々に恐怖の光景だっただろう。

 幸いにも従属下にあった者たちはその力が抜けた影響……あとはレルヴァも抜けた影響で動くことすら出来ず、その光景を見ている者はいなかった。

 まあ、いたとしてこの状況でキコリを乏しめるようなことを言う馬鹿はいないだろうけども。

 ともかく、キコリの下へ戻ったレルヴァたちはキコリの鎧へと融合し、城に残ったのはキコリただ1人になる。

 トールの死骸へ振り向くと、キコリは「ブレイク」と唱えてその全てを消し去る。これで、この死骸が利用される可能性も消えた。魔王騒動は、決着したのだ。


「なんと……」

「ん?」

「あの男を……本当に殺したのか」

「えーと……さっき此処に居たスケルトンの」

「スケルトンジェネラルのウッドだ。貴方は……まさかドラゴンなのか?」


 随分と回復が早いが、スケルトンだからなのかもしれない。そんなことを思いつつも、キコリはウッドの問いに「ああ」と答える。別に隠すことでもない。


「なんと……ドラゴンが私たちを救いに来てくれたのか」

「結果的にそうなったけど、別にそういうわけじゃない」

「と、いうと?」

「俺の救いたいものを救うために、虐殺が正しいとは思えなかったんだ。だから、そうした」


 そう、キコリはそこまで聖人ではない。ただちょっと、モンスターに対して好意的であるだけだ。

 そして、トールに操られたモンスターたちにドドを重ねただけでもある。

 ウッドたち「操られただけのモンスター」を倒すのは、自分の中で何か一線を超えるようで、やってはいけないと感じたのだ。

 あるいはそれは破壊神の如き行動をとるのを無意識に嫌がったのかもしれないが……同時に、オルフェに胸を張れる自分でもありたいという気持ちも働いていた。

 だから、褒められるようなことではないとキコリは思う。

 しかし此処でキコリが1つ見落としていたのは……そんなものは助けられた側には関係ないという、そんな事実だ。


「それでも……私たちは貴方に助けられた」


 ウッドはそう言って、その場に跪く。それはウッドの知る、最大限の感謝を示す姿勢だった。


「ありがとう、ドラゴンよ。貴方は、私たちの救世主だ」

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