世界なんかいらない

「そうだな。俺自身の魔力なんて、ほとんどない。せいぜいが魔法数発分だ」


 そう、キコリは魔法の才能というものがない。

 魔法を使う才能もなければ、魔法を使うための魔力の才能もない。

 かつて、ブレイクを3発使うのが精いっぱいだった頃と、ほとんど変わってはいない。

 ドラゴンになって世界から魔力を無制限に引き出すことが出来るようにはなった。

 レルヴァたちと繋がることでレルヴァの魔力を使うことが出来るようになったし、新たなレルヴァを作ることも出来るようになった。

 空を飛ぶことだって、レルヴァたちの補助によりずっと上手く出来るようになった。

 色々、出来るようになった。けれど全て、後付けしたものばかりだ。

 キコリ自身は変わらず非才のままで、それは何ひとつ変わってはいない。

 キコリという豆粒のような代物に、巨大な部品を付け足しているのと何も変わりはしない。

 しかし、それでも。そんなキコリだからこそ、言えることがある。


「生まれつき持ってた才能で暴れて、楽しかったか? もっとマトモな方向に使えば、こんなことにならなかっただろうに」

「マトモだと……!? 俺の力は支配者の力だ! その通りに使って何が悪い!」


 世界を大きく進歩させた転生者はたくさんいた。大神エルヴァンテも、そうした生き方をしてくれることを望んでいた。

 なのに、魔王トールはそれをしなかった。魔王だとか名乗って、こんなことをした。

 世界を守るはずのドラゴンも1人、そのせいで消えてしまった。

 従属とかいう力をどう使えばマトモに生きられるかについては……たとえば狂暴なモンスターを大人しくさせるとか、そんな方向でも使えたはずだ。

 

「別に悪いとは言わないさ。だが、お前は世界の敵で……それ以前に、俺の敵だ」


 斧を構えるキコリに、トールは後退る。本気の殺気なんてものを初めてぶつけられたせいだろうか……「従属」の力さえあれば、今までそんなものとは無縁だっただろう。トールは明らかに気圧されていた。

 それもまた才能の差であり、努力の差でもあるだろう。

 残念ながら非才の身であるキコリは殺気をぶつけられ続けてきたし、殺気すら武器にして戦うしかなかった。命の危機なんてものは、日常だった。

 だから今、その差が此処にあった。楽に勝利を得続けてきた者には、死の恐怖などというものは耐えがたいものだった。


「ま、待て! おい! 俺につけよ! そうしたら世界を……!」

「いらない」

「は?」

「世界なんかいらないんだよ。俺は、もっとずっと小さな幸せでよかったんだ。俺が欲しいのは、それだけだったのに」

「な、なら……!」

「死ね」


 斧がトールに振り下ろされる。何の工夫もない、ただ薪を割るような振り下ろしによる一撃。

 それが、一連の騒動を終わらせた一撃であった。

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