取り戻した日常
これからどうするのかと問えば「ひとまず元の場所に帰る」との返答が帰ってきた。
魔王トールの力で集められはしたが、こうして従属の力が解けてしまえば烏合の衆に過ぎない。
ならば自由に解散して、いずれ望む者はフレインの町に向かえばいい。そういうことになったのだ。
……まあ、それでいいのだろうとキコリは思う。
実際、彼等はフレインの町を襲う予定だった魔王軍の一員だったのだ。記憶がある以上、どの面下げて……という気持ちもあるのだろう。そうした気持ちをまずは整理できなければいけない。
これに関しては、キコリがどうこう言えば良いという問題ではない。
だから、元魔王軍の面々とはあの場で別れて、キコリはフレインの町へと戻っていた。
レルヴァの補助を受けながらであるが飛行するキコリは、見えてきたフレインの町に「あっ」と声をあげる。
「ドラゴンエッグが消えてる。シャルシャーンの奴、やっぱり見てたんだな」
「不可思議な相手です。気配など感じなかったのですが」
「シャルシャーンだからな。考えるだけ無駄って気はする」
訝しがるルヴにそう応えながら、キコリはザワザワと混乱したような声が聞こえてくるフレインの町を見下ろす。
(……大丈夫だ。大丈夫。もう、俺は皆の敵じゃない)
そう自分に言い聞かせながら、キコリは深呼吸する。
フレインの町の皆が襲ってきた経験は少しばかりトラウマになっていたようで、降りるのがほんの少しだけ怖かったのだ。
たとえ、もう大丈夫なのだと頭で分かっていてもだ。
だから、キコリはその場で軽く深呼吸をして。そうすると余計な考えが一瞬消えたせいか、聞こえてくる。
「キコリだ!」
「おーい、キコリー!」
「すまない、キコリ! 俺たちが油断してたせいであんな……!」
聞こえてくる声は、キコリを呼ぶフレインの町の住人たちの声だ。
すでにその声からは、あの狂気はもう感じない。やはり皆も、元に戻ったのだ。
そして……キコリに向かって飛んでくる姿が、1つ。
「キコリ―!」
「オルフェ⁉」
そう、それはオルフェだ。ほっとしているような、怒っているような、心配しているような……なんとも複雑な表情がそこに浮かんでいて。
「何処に行ってたのよ! なんか気がついたら皆慌ててるし落ち込んでるしアンタの名前呼んでるしで……アンタはアンタで鎧が変わってるし空飛んでるし! ほんと何があったの!?」
あまりにもいつも通りのその姿に、キコリはほっとする。
ああ、此処には「いつも通り」があると、そう感じたのだ。
だから、キコリはオルフェに微笑む。ようやく取り戻せた日常の、その象徴に。
「色々あったんだよ。でも、どう説明したものかな……シャルシャーンあたりなら説明してくれると思うんだけど」
見下ろせば、アイアースが明らかに落ち込んだドドを引っ張ってきているのが見えてクスッと笑う。
戻ってきた。取り戻した。今は……その事実が、何よりの救いだった。
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