『楽園』の奴の世界
しかしアイアースがオルフェ含む妖精のことに興味が無いように、ユグトレイルも妖精以外のことには興味がない。
今もアイアースが来ているというのに森は静かなものだ……どうでもいいと思っているのがよく分かる。
だから、アイアースは視線の先に見えているユグトレイルへ向けて飛んでいく。
巨大な世界樹であるユグトレイルの前に降り立つと、めんどくさそうな声が響き始める。
『何の用だ、アイアース。私はお前に会いたくないのだが』
「うるせえ、俺様だってお前にわざわざ会いたくねえよ。だがなあ、キコリのためなんだよ」
『キコリ……? ああ、あの妖精と一緒にいた……』
「お前の覚え方……まあ、いいや。そのキコリだ」
『それで? キコリがどうした』
「シャルシャーンが破壊兵器に仕立てようとしてる。今、一歩手前ってとこだ」
そのアイアースの言葉に、ユグトレイルはただ無言。何を考えているのか表情では分からないのでアイアースが様子を見ていると、ユグトレイルからやがて声が響く。重々しい、苦悩するような声だ。
『そうか。おかしな力が蠢いているのは感じていた。昔聞いた『破壊神』とやら関連か』
「おう。生まれ変わりのキコリに破壊神の力を混ぜ込んで新しい破壊神とぶつける気らしい」
『……』
なるほど、とユグトレイルは理解する。破壊神についてはシャルシャーンが随分昔に話していたのを覚えている。その生まれ変わりに力を持たせてぶつける……それ自体は間違ってはいない。
いないが……間違っていないのと正しいのは別の意味だ。何しろ、あのキコリという男には妖精の力が混ざっている。それはユグトレイルにとっては僅かではあるが庇護の対象を意味する。
だとすると、どうするのか? シャルシャーンが関わったのであれば、もう「戻す」のは不可能だろう。と、なると……。そこまで考えて、ユグトレイルは理解する。
『ああ、そういうことか。アイアース。お前は私たち『で』、破壊神とやらをどうにかしようというのだな』
「おう。俺様がそれを全部説明したところで聞きやしねえだろう?」
『当たり前だ。しかし、そうか。ふむ……となれば、やはり『楽園』の協力は必須だろう』
「なんだよ。お前、『楽園』の奴のこと覚えてんのか?」
『私の能力と奴の能力には似ているところがある。どうする? 送ってやろうか』
「出来るんならやってくれ。こっちは急いでんだ」
そう、手段があるならばゴチャゴチャと言ってはいられない。
だからこそアイアースはそう答えるが、ユグトレイルは「そう上手くいくかな」と呟く。
『異界を渡り辿り着くがいい。その先に『楽園』の奴の世界はあるだろう』
そうユグトレイルが宣言した瞬間……アイアースの意識は、遠くなっていった。
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