そのエゴは

 それから、数日が経過した。キコリたちと暮らしていたときとは違う、食事もしなければ何か趣味に興じるわけでもない……そんな、ドラゴンらしい生活にもアイアースはすっかり慣れ始めていた。


「……特に何も感じねえな。ま、元の暮らしに戻っただけだからそういうもんかもしれねえが」


 それより問題なのは、未だにユグトレイルの住処につかないことだ。

 ドラゴンとしての飛行能力でかなり速度を上げているはずなのにコレだ。

 徒歩などで行けば数カ月単位になったのは間違いない。何の当てもなく行けば、下手をすれば数年単位になった可能性すらある。


(だからこそシャルシャーンの野郎が素直に捜索手段を渡してきたとも言えるか。アイツの手の平の上なのは気に食わねえが……)


 シャルシャーンが望むものは分かり切っている。全てのドラゴンを集めての総力戦。それであれば、破壊神を追い返すのが大分楽になる。

 シャルシャーン自身の信用がかなりダメなのでアイアースにやらせようとしているのだろうが……まあ、現存するドラゴンの中でフットワークが軽いのがアイアースだけなのだから仕方がないのだろう。

 ならばアイアースの信用はどうかというと、これまた微妙なのだが……さておこう。

 少なくともドンドリウスとヴォルカニオンはキコリの名で説得できている。ならばユグトレイルの説得も上手くいくかもしれない。

 そう考えながらアイアースが転移門を潜ると、荒野だった光景が森に切り替わる。

 見渡す限りの大森林と、その中央にそびえ立つ世界樹……間違いなくユグトレイルの領域だ。

 アイアースの見る限りでは生えている木もほとんどがモンスター「トレント」だ。

 恐らくはデモンモンスターが侵入してきたときに一切の容赦なくぶち殺すためなのだろうが、その苛烈な性格が一切変わっていないことにアイアースはげんなりしてしまう。


(キコリの野郎はユグトレイルはちょっと重たい愛の持ち主だとか言ってたが……そんなもんじゃねえ。アイツのエゴを知らねえからそんなことを言えるんだ)


 守護のユグトレイル。そのエゴは「愛する」ことだ。

 キコリと真逆に見えるが、そうではないとすぐに分かる。一方的なその愛は愛されている本人が嫌がるような類のものだ。

 ユグトレイル自身、妖精にその愛を注いでいたが逃げられたらしいというのはキコリたちの話からアイアースも知っている。

 まあ、そこからオルフェが妖精女王になる流れへと繋がったのだから分からないものだが、まあどうでもいい話だ。オルフェが妖精だろうと妖精女王だろうと、アイアースにとっては何も変わらない……というよりも比較的どうでもいい話なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る