アイアースらしい
結果から言うと、シャルシャーンの寄越してきた緑の珠は役に立っている……ように見えた。
少なくとも何の指針もないよりはアイアースの足取りを早めていることは確かであり、シャルシャーンが此処で根拠のない騙しをする理由がないという一点においてのみ、この緑の珠をアイアースは信頼していた。
しかしながらアイアースは空を飛びながら地上を見下ろし、何とも嫌そうな顔をする。
そこにいたのはゴブリンの群れ……なのだが、恐らくはデモンであることは、ほとんど違いのないその顔で見て取れる。
「ウジャウジャとよお……ゴブリンなんざホイホイ死ぬからな。デモンとして出る確率が高いのは理解できるがよ」
しかし、それにしたって生物としての正常な繁殖速度を超えている。このままではいずれ、何か重大な事態が起こってもおかしくはない。
そう、たとえば「増えすぎたデモンモンスターが溢れ出し何処かへ向かう」ような、そんな事態だ。
人類もあの壁でモンスターが自分たちの領域に出てくることを防ごうとしているようだが、それが破られるような事態も発生し得るだろう。
「まあ、減らしとくか。グングニル」
アイアースが光の槍を放つとデモンゴブリンたちは一斉に爆殺されていく。まあ、どうせまた出てくるのは確定だが、ひとまずはこれでいいだろう。アイアースがこんな場所に常駐しているわけにはいかないのだから。
そのままアイアースは飛んでいくが、どうにもこのままでは未来は暗いような気がしてならない。
(大地の記憶がおかしくなってるっていうんなら、神様たちはそいつの修理にも取り掛かってるんだろうけどよ。そもそもどうにかなるもんなのかね、こんなのがよお)
それが並の苦労ではないことは理解できるからこそアイアースとしては神々に期待するしかないが……少なくとも地上に生きる者の視点としては、かなり面倒な話ではあった。
別にアイアースとしては人間など滅びても構わない。構わないが……まあ、そういうわけにもいかないのだろう。
「だがそれでも数百年後か数千年後か……そこまでに直ってなけりゃあ、世界は相当変わるだろなあ」
まあ、そんな先のことはひとまずアイアースとしてはどうでもいい。
緑の珠の指し示す先へ向かうのが今のアイアースのやるべきことであり、それ以外は「ついで」に過ぎない。
今デモンゴブリンを倒しておいたのも、回り回ってキコリの負担にならないように……といった程度の話だ。
とにかく、さっさとキコリのためにユグトレイルを見つけなければならない。それ以外は本当に、一切の興味もアイアースにはないのだ。
それはある意味でアイアースなりのキコリへの友情のような好意じみたものだが、しっかりとそれを自覚しているがゆえにシャルシャーンへの殺意が高まるのもまた、アイアースらしいとは言えるだろう。
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