ちょっと頑張り過ぎた

 破壊を続けていくと、何やらコインらしきものが散らばった場所に辿り着く。

 まるで強盗が逃げた後のような、そんな惨状だが……何の店かは想像がついた。


「此処が両替商か」

「分かるの?」

「いや、状況からの推測だ」


 たくさんのコインが落ちているような場所など、他には金貸しくらいしか想像がつかない。

 ジオフェルドが両替商の話をしていたから、そこからの推測でもあるが。

 キコリは落ちているコインに斧を叩きつけると、割れたコインを拾い上げる。


「……魔石がない」

「あ、ほんとね」


 見えないくらいに小さな魔石が入っているのでなければ、このコインは……いや、此処に転がっているコインは「生きているコイン」ではないということになる。

 見た感じは全て金貨のようだが、此処を荒らしていた連中は何故これを放置していったのだろうか?


「ま、いいか。壊そう」

「そうね」


 オルフェの魔法が炸裂し、両替商の建物が粉微塵になる。

 そうして壊しながら進めば「次」に繋がる転移門の側まで来る。

 先に進んでみようかとも思ったが、ひとまずはいいだろう。

 壊して回って、入り口の壁以外は全てなくなって。

 門から壁の向こう側を覗いてみれば、商人の姿も消えていた。


「……いないな。破壊音で逃げたか?」

「どうでもいいんじゃない?」

「まあな」


 常識的に考えて建物を壊しまくる破壊音が連続すれば、逃げるのはリスク管理として普通だ。

 しかし、逆に丁度いい。この町は全部壊すつもりだったのだから。


「ブレイク」


 触れた場所から門が崩れ……ある程度まで崩壊すると、そこで止まる。


「ま、こんなもんか」

「大分疲れたわねー」

「そりゃあな。とりあえず片っ端から壊したけど、何か出てくる様子も無し。ロックゴーレムでも出て来れば『此処が原因』で確定だったんだが」


 だが、出てこないものは仕方ない。「生きている」町が原因でなくとも、その先の何処かという可能性だってある。

 あるいは砂漠の方から来ている可能性だってあるのだ。

 1つ可能性を潰せただけでも十分だろう。


「……」


 キコリとオルフェは壊れた「生きている町」をしばらく眺めていたが、やはり何かが起こる様子もない。

 本格的に「ハズレ」ということなのかもしれない。


「戻るか。ちょっと頑張り過ぎた」

「そうね」


 言いながら、キコリとオルフェは転移門を潜ってその場から消えて。

 誰も居なくなったその場所に……低い、声が響く。


「面白い。面白いな……お前の手番、楽しませてもらった」


 だが、と「その声」は言う。


「だが、次は我の仕込みも済んでいる。趣向は凝らしたつもりだ……存分に楽しんでくれ」

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