今の自分ならば
「いや、言ってる事は分かるけどな?」
確かにそうした方が話は早いだろう。
ゴーレムの件も鎧の剣士の件も、全部此処が出所の可能性が高い。
町を全部壊してしまえば、そんな問題も出なくなるかもしれない。
此処に「管理人」が居ないのであれば、尚更だ。
問題としては、此処が「稼ぎ場」であるということだ。
潰してしまえば、防衛都市としての収入も激減するだろう。
「……ああ、別に問題ないか」
ニールゲンにはそんな稼ぎ場などなくても、ちゃんと経済は回っていた。
ならこんな「稼ぎ場」など無くなった方がいいのではないだろうか?
安全に稼ぐから、冒険者が腐るのではないだろうか?
そう考えれば……この「生きている町」は、毒だ。
叩き壊して更地に変えれば、もっと良い方向に変わるのではないだろうか。
「よし、やろうオルフェ」
「そうこなくちゃ!」
キコリはひとまず、武具店の向かいにあった建物に手を触れる。
その家が崩れ去る姿を思い描き、魔力を掌に集めて。
「ブレイク」
建物に亀裂が走り、ガラガラと崩れ去る。
やはり多少の魔力抵抗がある。此処を何者かが作り上げたのは確定というわけだ。
そして振り向けば、オルフェがその辺りの家に片っ端から魔法をぶつけて壊しているのが見える。
「あはは! たーのしー!」
「人が居ないかは気を付けてくれよ」
「そんなヘマしないわよ! 人間は臭いからよーく分かるもの!」
その言葉に、キコリは苦笑する。
ニールゲンでアリアとも暮らして、このイルヘイルでもジオフェルド達と話して、人間に対する嫌悪感は薄れたのではないかとも思っていた。
しかし実のところ、あまり変わってはいないのではないか。そう気づいたのだ。
きっとキコリの手前「仲良くしている」だけなのだろう。
まあ、人付き合いとは多かれ少なかれ、そんなものだが。
「ブレイク」
もう1件家を壊して、キコリはオルフェをチラリと見る。
キコリが今取得している魔法は「ブレイク」「ミョルニル」の2つだけだ。
ドラゴンとしての力を使えばドラゴンブレスなども選択肢に入るが、軽々とは使えない。
それはキコリの魔力の少なさに起因したものだが、今はそうではない。
なら……もう少し何かできるのではないだろうか?
「いい機会だ。やってみるか」
ブレイクを覚えたあの日、本で読んだ魔法を思い出す。
あの時は選択肢にすらなかったが……今なら。今の自分ならば。
思い出せ、あの魔法の使い方は。
手を、空へと掲げて。
相手を打ち砕く槍をイメージする。
「グングニル」
巨大な槍を、投擲する。
爆発と共に家が吹っ飛んだ時……キコリは、自分の中の選択肢が自分の想像よりも広がっている事に気付いていた。
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