そもそも正解なんてものがあるのかも

 そこは、まさに戦場だった。

 あちこちでコボルトと冒険者がぶつかり合い、そしてほぼ一方的にコボルトが狩られていく。

 当然だろう。数と数のぶつかり合いであれば、実力の勝る方が勝つに決まっている。

 此処に居るのは大体が実力のある冒険者なのだ。

 そんな連中が、これだけ数が居れば不意打ちも意味を成さない。

 たまに出てくるホブコボルトが冒険者を蹴散らす場面も見受けられるが、すぐに他の冒険者が群がってあっという間に狩られていく。


「……なんか凄いな」

「こうなると、穴の中から出てこなくなる日も近いわね」


 全滅するとは言わないオルフェに、キコリは少しばかり嫌な予感がして問いかける。


「あー……もしかして地下にいる数、かなり多かったりするのか?」

「……総数だけなら、とんでもないんじゃない?」


 ゾッとする。

 オルフェの……妖精の視点から「とんでもない」というなら、最低でも1000は超えているだろう。

 その中には当然ホブコボルトも多数いるだろうし、それ以上だっているかもしれない。

 それが、この平原の「下」にいるのだ。


「さっさと抜けよう。右か、左か……」


 正面という選択肢はない。あそこは未だワイバーンの支配下のはずだ。

 どちらが正解かは分からない。

 そもそも正解なんてものがあるのかも分からない。

 少しだけ考えて……キコリは左へと歩きだす。


「左にした理由はあるの?」

「いや、特にないけど……左手の法則っていうのがあるのを思い出した」

「何それ」

「いや、よく覚えてないんだが……迷宮を抜ける為の法則的なものだった気がする」

「ふーん。ま、いいんじゃない?」


 実際「左手の法則」とはどんなものだっただろうか。

 なんか前世でそんなものを聞いたな程度の知識なので間違っている可能性は高い。

 しかし、こんなものは所詮勘に頼るしかない。

 どちらを選んだところで正解など存在するはずもない。

 地獄か、より酷い地獄か。

 言ってみれば、その程度の差でしかないだろう。


「ガアアアアアア!」


 襲ってきたコボルトを、キコリは斧の一撃で叩き切る。

 ワイバーンを相手にしたせいだろうか。

 コボルトを、然程の脅威とも思えない。


「行こう、オルフェ」

「ええ、行きましょ」


 歩いて、キコリはオルフェと共にコボルト平原を進んでいく。

 周囲で展開されている戦闘も、特に気にはしない。気にならない。

 気にしたところで、互いに邪魔だと不快になるだけだ。それが冒険者の倫理観だ。

 余程の不利でもなければ、加勢などされたくはない。

 そうして、2人はコボルト平原の「左」の転移門を潜っていく。

 その先に広がっていた光景は……深々と降る雪と、真っ白な雪景色だった。

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