ゴブリンよりは強いわよ

 干しブドウをモキュモキュと音をたてながら食べているオルフェを見て……いると怒られるので、キコリは地面に座って空を見上げていた。

 このドラゴニアンメイルは着ていると不思議と熱さも寒さも感じにくい。

 鎧の力なのだろうが、おかげでマントは必要なくなっている。


「……ダンジョン、か」


 もう中には結構な人数も入っているだろう。

 コボルト平原は相当厄介な場所に思えたが、冒険者が大量になだれ込めば制圧だって出来るかもしれない。

 ワイバーンはどうだろう。無理かもしれないが、出来るかもしれない。

 キコリより強い冒険者なんて、大量にいるのだ。

 強い。

 強さ。

 どうすれば強くなれるのだろうか?

 武器も鎧も、強いものになった。

 魔法だって2つだが覚えた。応用だって出来ている。

 身体の動かし方だって、大分こなれてきているはずだ。

 ドラゴンクラウンとかいう力だって、キコリの中にあるらしい。

 これだけ並べれば、まるでキコリが強者になったかのように思える。

 けれど現実はどうだろう。

 妖精たちの協力を得てなお、ワイバーンから無様に逃げるしかなかった。


「……弱いな、俺」

「大丈夫、ゴブリンよりは強いわよ」


 オルフェからそんな、たぶんフォローであるだろう言葉をかけられる。

 ゴブリンよりは強い。

 それは喜ぶべきことではあるのだろう。

 キコリが多少は強くなっている証なのだから。


「何よビミョーな顔して。アンタ、1人にすると辛気臭くなるタイプ?」

「あー……どうなのかな。そうなのかもしれないな」

「辛気臭っ」


 オルフェは干しブドウを掴んでいた手を袋で拭くと、ジロリとキコリを睨む。


「弱いなら強くなりゃいいでしょうが。アンタ、あたしとワイバーンをぶっ殺す約束忘れたの?」

「忘れてない。だから、どうやって強くなればいいか悩んでたんだ」

「強くなる方法ねえ……進化でもする?」

「……それって人間に出来るのか?」

「知らないわよ、そんなもん」


 要はゴブリンがホブゴブリンになったりジェネラルになったりするやつのことなのだろうが。

 人間にそれが出来るなら、強い冒険者は皆進化していそうなものだ。


「まー、手っ取り早いのはドラゴンクラウンじゃないの?」

「俺のは劣化版なんだろ?」

「だから、それが強くなればいいんじゃない?」


 ドラゴンクラウンの強化。

 その言葉に、キコリは心臓が高鳴るのを感じた。

 ドラゴンが最強たる証。

 それを強化できるなら……確かに、それは。


「ど、どうやればいいんだ?」

「知るわけないでしょ」

「……またそれか」

「あ、ムカつく!」


 オルフェは明らかに気分を害した表情になると、キコリを蹴り始める。


「相談に乗ってあげた人に対する態度じゃないわよ!」

「だったらもう少し建設的な意見くれよ!」

「ほおー!? じゃあ言ってやるからよく聞きなさいよ!」

「おう!」

「毎日トレーニングすればぁ?」


 キコリは、少し考えて。


「……俺が悪かった」

「分かりゃいいのよ」


 何の反論も出来ずに、オルフェに頭を下げていた。

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