「レルヴァ」の軍勢

 魔王軍の本拠地。やけに立派な……恐らくはドンドリウスかソイルレギオン辺りがが試作したと思われる街の城で、トールは苛立っていた。

 グラウザードが帰ってこない。ということは、あのシャルシャーンとかいうドラゴンにやられたのだ。


「くそっ、なんでだよ! ドラゴンなんか噛ませの雑魚だろう⁉ そもそも俺の『従属』がなんで効かねえんだ!」


 どんなモンスターでもトールの言うことを簡単に聞くようになった。まさに無敵の力だった。このままモンスターを全て従えて、世界征服する計画だったのに。

 その後は別の異世界にも行って、幾つもの世界を従える帝王になる予定だったのに。

 まさか、その鍵だったグラウザードが死ぬだなんて思ってもいなかった。


「有り得ねえ……だが、あの金色のドラゴンが最強なはずだ。なら、他のドラゴンを配下にしてから袋叩きにすりゃいい。それで弱らせれば従属させられるはずだ」


 そうだ、それがいい。そうすれば何の問題もない。グラウザードは死んでしまったが、他の強力なモンスターは幾らでもいる。まずは、他のドラゴンを攻めればいい。


「おい。確か木のドラゴンがいるんだよな」

「はい。守護のユグトレイルですね。穏やかなドラゴンとして知られています。妖精を庇護し、トレントどもを配下に加えているとも」


 控えている配下……ジェネラルスケルトンの返答にトールは「よし!」と玉座から立ち上がる。


「場所が分かってるなら簡単だ! すぐにそいつのところへ」

「た、大変です!」


 トールがまさに命令を出そうとした矢先に飛び込んできたのは、1体のコボルトであった。

 あからさまに焦ったようなその様子に、トールは「まさかあの金色が⁉」と焦り、ジェネラルスケルトンが「何事だ!」と叫ぶ。


「しゅ、襲撃です! 全身黒い、翼の生えた謎のモンスターたちが……!」

「謎ぉ!? 未知のモンスターとかいるのかよ!」

「も、申し訳ありません! しかしあのようなモンスター、見たことが……!」

「くそっ!」


 トールは慌てたように階段を昇り、城のベランダから周囲を見回して。すぐにゾッとする。

 いる。確かに、いる。空の向こうから、此方に向かって飛んでくる黒い雲のような……しかし、そうではないと気付くそれに。

 それは、群体だ。全身黒く、口のような器官は無く。光る眼が如何にも恐ろしい。

 黒い翼はまるで蝙蝠か何かのようで、角と鋭い爪が見えている。

 どの個体も似ているように見えて、微妙に違うものばかり。そう、それはまるで。


「あ、悪魔……?」

「違います。アレは悪魔ではありません……なんだアレは……!」


 遅れてやってきたジェネラルスケルトンですら知らない。知るはずもない。

 アレは、アレこそは。伝説の時代に存在し、シャルシャーンが全滅させて。

 今、再び現れた「破壊の軍勢」の……そして今は、とあるドラゴンの配下。

 魔力生命体「レルヴァ」の軍勢なのだから。

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