色々と無茶をすると思う

 ともかく、ルヴがこの状態で喋れるならばキコリとしても何の問題もない。

 だからこそキコリはルヴの斧を構えながら問いかける。


「それで……これから何処に向かえばいいんだ?」

「はい。帝都ハルコネンに向かうべきでしょう」


 レルヴァによる一斉攻撃がなされた3つの都市のうちの1つ、「帝国」の首都であるハルコネンにはかなりの数のレルヴァが導入されている。敗北したわけでなければ同じようにレルヴァがいるだろうとルヴは語る。事実、この場所よりも帝都ハルコネンのほうがレルヴァは多く投入されている。よほどのことがなければ負けるはずもない。

 

「……よほどのこと、か」

「何かご懸念が?」

「ちょっとな、元の世界のことを考えてた」


 キコリたちの世界でも、破壊神ゼルベクトは倒されている。しかし、世界の歪みがそのままであるから、大きな力を持った異世界転生者のようなモノが定期的に流入を続けている。

 実質勝利した世界で「そう」なのだ。ならば、実質敗北した世界の歪みはどうなっているのか?

 普通に考えて、直っているはずがない。ならば新たな「危険な異世界転生者」も現れているのではないだろうか? 

 それこそあのゴブリンや、トロールのような……そういうモノがだ。

 そしてそういうモノが人間として生まれていた場合は、当然のようにレルヴァと敵対している可能性だってある。


「……まあ、可能性の話だけ論じたって仕方ないのは分かってるけどな。何が出てきてもおかしくないくらいの気持ちで行こう」

「無警戒よりゃマシだろうよ」


 アイアースも同じことを考えたのだろう、頷くが……ルヴは「そうですね」とだけ頷く。


「では心構えも出来たところで出発しましょうか?」

「ああ、そうだな。道案内を頼む」

「ええ、勿論です。ではまずは北へ向かいましょう」

「北……」

「そちらは南です」


 アイアースが「こいつは……」と言いたげな表情で見ているのをスルーしながら、キコリは北へと振り向く。

 この世界のことなど何1つとして分からないままだが、それでも確かなことはある。それは、この世界に骨をうずめるわけになどいかないということだ。

 キコリはなんとしてでも元の世界に帰り、オルフェを、ドドを救う。そのために、あの魔王をぶっ飛ばさなければならないのだ。

 そのためであれば、この世界で破壊神ゼルベクトの力の残滓たるレルヴァたちを集めることも、それを元の世界に持ち込むこともなんでもない。


「ルヴ」

「なんでしょう?」

「色々と無茶をすると思う。でも、よろしく頼む」


 そんなキコリの言葉に、ルヴは笑うようにカタカタと震えて。「こちらこそ」と答えるのだった。

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