たぶんホブゴブリンに会ったら死ぬな
ドン、と。凄まじい勢いで角を突き出し跳ぶ角ウサギに、キコリは真正面から剣を叩きつける。
だが、斧とナマクラ剣は違う。鋳造で鍛えた安物剣は重さで叩き切るという点では斧に似ているが、斧と比べて頑丈さに欠けるのは否めない。
「ぐっ……!?」
バギッと間抜けな音を立てて剣は欠け、角ウサギもゴロゴロと地面に転がり力尽きる。
どう見ても死んでいるが、一応オルフェは杖で2、3度の打撃を加えて死んでいると確かめる。
「……よし、死んでるわね。キコリ、怪我は!?」
「ない。でも武器が脆すぎるな……欠けたぞ」
「そんなもんじゃないの?」
「そうなのかな……俺、斧で良かったよ」
「それは剣よ」
「知ってる」
試しにキコリは角ウサギを解体してみるが、魔石は見つからない。
此処がユグトレイルの作り出した世界の中だからだろうか?
「魔石はない、けど……角は手に入ったな」
「何に使うの、そんなもん」
「武器」
「ギイイイイイイ!」
草むらの中から襲い掛かってきたゴブリンの剣を自分の剣で防ぐと、キコリはその横っ面に持っていた角ウサギの角を突き刺す。
「ゲッ……ア……」
剣を押し込もうとする力が緩んだ瞬間、キコリはゴブリンの剣を跳ね飛ばし斬り裂く。
倒れこむゴブリンに剣を突き刺してトドメを刺せば、キコリは小さく息を吐く。
「やるじゃない」
「力が消えても経験が消えたわけじゃないしな。でも……今ので結構腕が痺れた。たぶんホブゴブリンに会ったら死ぬな」
本来のキコリからすればとんでもない弱体化だが、防衛都市に来た頃のキコリはその程度だった。
この上チャージも出来ないからミョルニルも乱発は出来ない。
出来ないが……キコリはゴブリンの持っていた剣を拾い上げ、軽く振る。
「ま、でもやるしかない。オルフェ、サポートよろしく」
「任せなさい」
そうして歩けば、キコリの頭ほどに大きなテントウムシが4匹顎をギチギチと鳴らしながら飛んでくる。
手数が足りない。剣で迎撃しても足りない、食いつかれる。オルフェの魔法、ダメだ。どの程度の威力かまだ判別できない何より間に合わない。それでも、キコリは自分に出来る最善手として剣を振るって。
「がっ!?」
強靭な顎と突進で剣を持っていかれ、残る2匹がキコリの腕を鋭い顎で斬り射程外へと移動していく。
「ファイアショット!」
オルフェの放つ炎の弾をテントウムシは難なく回避し、そのまま反転してキコリへと急降下する。
剣を取りに行く暇はない。キコリの手に、もう武器はない。
「この……ファイアショット! ファイアショット!」
オルフェの放つ魔法は当たらなくて、2匹がキコリの脚を、2匹がキコリの腕を狙って飛んでくる。
動けなくなるまで繰り返すつもりだ。それが分かっているが、有効な攻撃はない。
かくして右脚、左足、左腕をキコリは深々と斬り裂かれて。
残る1体だけを狙って、キコリのラリアットがきまる。
当然、それはテントウムシの強靭な凶器たる顎を自分に突き刺すような行為だ。
それでも、テントウムシは僅かに勢いを失って。
「……捕まえ、たああああ!」
両手で掴み地面に叩きつけ、その勢いのまま自分の膝を叩きつける。
怪我をしかねない、後のことを何一つ考えない無茶苦茶な一撃。
その答えは……グシャリと潰れて体液をまき散らす、1体のテントウムシだった。
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