無茶も初めてじゃあない

「まず、あたしは妖精が使える能力はほぼ使えないとみて間違いないわ。魔法的な能力も大分下がってる」

「ああ、あとその身体は……人間ってことでいいのか?」

「たぶんね。で、アンタもたぶんドラゴンとしての諸々は使えないでしょうね」


 言われてキコリは頷く。チャージも出来ないし、斧も鎧も出せない。

 身体も防衛都市ニールゲンに来た頃のような重さだし、色んなものがあの頃と同等か、それ以下に戻っているような感覚がある。


「俺も人間に戻ったってことか」

「……」


 キコリの言葉に、オルフェは悩むように黙り込む。

 肯定することを避けている。そんな風に見えて、キコリは首を傾げる。


「違うのか?」

「違うっていうか……そんなこと、出来るのかしら」

「人間に戻す事をか?」

「妖精やドラゴンを人間にする。世界樹でドラゴンとはいえ、そんなことが出来たら……それって神の領域じゃないの?」

「でも出来てるだろ。ならそれを前提に行動するしかないんじゃないのか?」


 事実としてそうなのだから、まずはそれを受け入れるしかない。

 キコリはそう思うのだが、オルフェは違うようだ。


「あのドラゴンも言ってたでしょ。世界に挑めとかどうとか」

「言ってたな」

「たぶん此処が『そう』なんだと思う。あたし達のことについてまでは分からないけど……」

『然り』


 聞こえてきたのは、あのユグトレイルの声だ。


『此処は私の内包する世界。そこにお前達を招いた。最も、その器は私の用意したものだが』

「げっ……本気で神の如きってわけ……?」

『否。私の内包する世界は不完全な真似事に過ぎない。私の敵を滅殺する手段程度にしか使えはしない。まあ、今回は試練だが……』


 試練。それを乗り越えれば世界樹の葉をくれるということなのだろうとキコリは理解する。


「分かった。何をすればいいんだ?」

『簡単だ。この世界を5階層まで駆け上り、守護者を倒すといい。その先に行けば、元の場所に戻るだろう』

「ああ、分かった」


 キコリは頷くと、オルフェに手を差し出し立たせる。


『お前達を強者たらしめて居たモノを失わせた。厳しい道程となるだろう』

「なるほど。ユグトレイル、貴方の言う通りだ」


 これまでキコリが積み上げたものを失った。此処に在るものも、頼りない剣一本だ。

 だが、それでも。キコリはこう言い放つ。


「けど、何も持っていないのは初めてじゃあない」


 防衛都市ニールゲンに来たばかりの頃、キコリは何も持っていなかった。

 持っているのは斧一本で、他には何もなかった。

 それに比べれば、今は。


「あの時と比べたら、オルフェがいるから随分楽だ」


 この恐らくナマクラだろう剣は、使い方もおぼつかないけれども。

 草の向こうから姿を見せた角ウサギへと、キコリは剣を構える。


「無茶も初めてじゃあない……見てろユグトレイル。ビックリするくらいの速さでそっちに戻ってやる」

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