夢や幻覚の類じゃない、か

 ユグトレイルの言葉の直後、キコリたちの視界が歪む。

 何処かに吸い込まれるような、不可思議な感覚を感じた後……キコリは、何処か知らない場所に倒れていた。


「此処、は……?」


 森の中であるのは間違いない。だが、先程とは明らかに違う。

 葉が赤く染まり、僅かに地面に落ちている。今までの青々とした森とは違う、紅葉した森。

 軽く頭を振りながら、キコリは自分がどれだけ意識を失っていたのかを思い出そうとして。


「そうだ、オルフェ……!」


 相棒の姿を探し周囲を見回し、ギョッとする。

 そこには、人間サイズになった……というよりは羽が消えローブ姿のオルフェが倒れていたのだ。

 まるで人間そのものなオルフェを揺り起こすと、オルフェは「うう……」と声をあげる。


「なんか身体が重い。感覚が鈍い……」


 言いながら起き上がると、オルフェはキコリを見てギョッとする。

 いつもより小さくなっている……勘違いでオルフェが大きくなっているのだが、そんなキコリに驚いたのだ。


「何これ、え。あたしが大きくなって……何この格好!? アンタも何それ!?」

「え? あっ、なんだコレ」


 言われて気付けば、キコリは革鎧を纏っている。

 最初に買った金属製の部分鎧とも違う、革を加工したハードレザーアーマー。

 そして腰には斧……ではなく剣を差している。

 試しに引き抜いてみると、鈍い鉄の輝きを放っている。


「……剣。まともに使ったことないな」

「ていうか、なんなの。魔法に関する感覚が妙に鈍いし、魔法の知識もモヤがかかったみたいだし……たぶんあたしこれ、基本的な魔法しか使えないわよ?」

「俺も、魔力が流れ込んでくる感覚がない。チャージは出来ないと思う」


 つまるところ、此処まで2人を支えていたほとんどのものがないということになる。

 しかし、何故?

 

「えい」

「いてててて!? 何すんだよ!」


 キコリの頬をつねるオルフェからキコリは逃げるが、オルフェは冷静な表情で「うーん」と唸る。


「痛がってる。つまり夢や幻覚の類じゃない、か」

「俺で試しても意味がないだろ……」

「それもそうね。じゃあほら」


 きなさい、と腕を広げるオルフェにキコリは「えっ」と驚き固まる。

 来いと言われてもどうしたらいいのか。

 まさか女の子の顔をつねるわけにも……と考えて。


「えい」

「いたたたたた!? 何すんのよバカ!」


 パーン、と音が鳴るくらいビンタをされてキコリは「理不尽だ」と思うが、まあ仕方ないかもしれない。


「アンタ今なんで顔つねった!? 言ってみなさいよ!」

「オルフェは女の子がどうこうの前に相棒だからいいかなって」

「よくない!」

「そっか、ごめん」

「まったくもう!」


 オルフェは一通り起った後、深呼吸し心を落ち着ける。


「とにかく現状を整理するわよ」

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