今日は忙しくなりますよ
「しょ、少々お待ちください!」
「待ちません。防衛伯からの仕事をナメているのですか?」
「そんなことは!」
「あ、これですこれ!」
バタバタとギルドが騒がしくなった後……受付嬢が依頼の紙を差し出す。
「こ、こちらになります」
「フン……さあ、キコリ様。こちらです」
「は、はあ」
受付嬢に明らかに冷淡な……まあキコリとしても良い感情は抱いては居ないが、物凄くあからさまな態度の変化にキコリは戸惑ってしまう。
……ちなみにオルフェは爆笑していたが。
出された紙は2枚。1つはゴーレムの発生源の調査依頼。もう1つは……。
「えーと……魔石の回収依頼。量は……」
「スタンダードな依頼ですね。要はとにかくモンスターを倒して魔石を回収すれば良いのですから」
「安全確保って意味もあるってことですよね?」
「その通りです。どういう意味と狙いがあるかを考えるのは、とても有意義なことです。裏を一切考えずに適当な仕事をすると、此処の職員連中のようになってしまいますからね」
キコリを褒めながら冒険者ギルド職員をこれ以上ないくらいにこき下ろしている。
流石にキコリもそれは理解できるが、曖昧に頷くくらいしか出来はしない。
「お、お言葉ですが!」
「黙りなさい」
「ヒッ!」
ジオフェルドが睨みつけると、受付嬢は悲鳴をあげて後退る。
「先日の件……防衛伯閣下は失望を超えてお怒りです。国際協力の害にしかならないのであれば……その立場、安寧たるものではないと知りなさい」
「ううっ……」
「冒険者ギルドは全てに対して平等であるのが大原則。現地採用だからと現地に忖度していいわけではありません」
そう言い捨てると、ジオフェルドは依頼の用紙を軽く叩く。
「これからこの依頼を果たしに向かいます。処理を」
「は、はい」
頷く受付嬢に背を向け、ジオフェルドは再びキコリたちに微笑みかける。
「さあ、向かいましょう。今日は忙しくなりますよ」
ジオフェルドが歩けば様子を見守っていた獣人の冒険者たちがザッと道を開けて……悠々と歩くジオフェルドの後を、キコリとオルフェは行く。
そのまま冒険者ギルドを抜けて幾つかの店を回って保存食を購入するが……キコリの後ろからジオフェルドがギロリと睨むと、何処の店主も途端にバタバタと慌てだす。
思わず疑問符を浮かべてしまうキコリだったが……荷物袋の中に入って干し果物の袋を開けていたオルフェが「あー、なるほど」と疑問を解決してくれる。
「これ、キコリに渡そうとしてたやつより良いモノね」
「……そういうことか」
「商人相手では基本的に下に見られていると考えていいでしょう。ただ……」
「ただ?」
「得てしてそういうモノです。種族関係なく、違いの分からない客はカモだと思っているフシがあります」
違いが判らなかったキコリとしては……何とも言えない表情を浮かべるしか、なかった。
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