指名依頼があるでしょう
イルヘイルの冒険者ギルドに入ると、全員の視線が一斉にキコリ達に向けられる。
「おい、普人だぞ……」
「昨日の騒ぎのか?」
「妖精がなんで町に……」
居るのはほとんどが獣人。この辺りはニールゲンとはかなり違いがある。
ザワザワとざわめく中、キコリ達はカウンターへと向かって。
その前に、獅子獣人が立ち塞がる。
「待て。見た事のない顔だが、加入希望者か?」
「隣の国から来た冒険者です。貴方は誰ですか?」
「……タグを見せてみろ」
キコリが青銅のペンダントを見せると、獅子獣人はフンと鼻を鳴らす。
「やめておけ。此処は今危険度が上がっている。装備は良いようだが、それだけでは死ぬぞ」
「ご忠告ありがとうございます。それで……貴方は『誰』ですか?」
キコリの再度の問いに、獅子獣人は「レオナルドだ」と答え金のペンダントを見せてくる。
「ちょっと前までであれば、新人を育てる余裕もあった。だが今は余裕がない。お前の墓穴を掘る時間すら惜しいんだ」
「そうだそうだ!」
「帰れ普人!」
「黙れ!」
レオナルドが吼えると、周囲の野次が止む。
「見ての通りだ。真面目な奴から死んでいき、クズばかりが残っている」
そう言って、レオナルドはジオフェルドへと視線を向ける。
「どういう関係か知らないが……ジオフェルド、アンタともあろう人が、なんで此処に普人を連れて来た。旅費でも渡して普人の国に帰してやるのが救いというものだろう」
レオナルドの言葉を受けて、これまで黙っていたジオフェルドがスッと前に進み出る。
「レオナルド。金級冒険者である貴方が『そう』だからクズがのさばるのでは? こちらのキコリ様はクズの言う事を鵜呑みにしたギルド職員に貶められた、隣国の防衛伯より派遣された使者なのです」
「……は?」
「世が世であれば戦争の口実にもなりかねない問題です。だというのに、貴方がそうでどうします。クズに見切りをつけ新人を育てるくらいの気概を見せるべきでは?」
「そんなこと……やっている! だが結果は知っているだろう!」
「足りません。何度失敗しようと再挑戦なさい。辿り着くまで何度でも」
ジオフェルドから放たれる威圧のようなものをレオナルドは真正面から受け止めるが、周囲から悲鳴のようなものが漏れ始める。
「……いや、俺の事は今はいい。隣国の使者だと? ギルドに貶められた? どういうことだ」
「情報が遅い。時間の無駄です、どきなさいレオナルド。貴方の立場で周囲に無頓着なのは許されざる怠慢です」
ジオフェルドに気圧され、レオナルドはその場をどき……キコリに頭を下げる。
「すまない、使者殿。言い訳はしない、俺の浅慮は何かの形で償おう」
「いえ……構いません」
「行きましょう、キコリ殿」
「ばーか、死ねクソネコ」
オルフェがレオナルドに舌を出していたが……ともかくキコリ達はカウンターに辿り着き、顔を青くしている受付嬢の前に立つ。
「こちらがキコリ様です。指名依頼があるでしょう。出しなさい、すぐにです」
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