俺は、殺し合いに来てるんだ
そうして鎧を纏ったキコリは、斧を背負い丸盾を持つとナイフを2本腰に差す。
売ろうとも思ったが、何かの役にたつかと思い直したのだ。
「ふうん、そうしてると一端の冒険者に見えるな」
「そうですねえ。ま、まだまだ駆け出しって感じですけど」
武具店の主人とアリアに言われ、キコリは照れたように頬を掻く。
部分鎧とはいえ、こうして鎧を着ているだけでも強くなった気分になれたのだ。
「まあ、鎧を過信はするなよ。そんなもん着けてたってオーガにでも会ったら肩鎧ごと腕をバッサリいかれるからな」
「はい、気をつけます」
「フン……坊主、名前は?」
「キコリです」
「ふざけた名前しやがって。なんだそりゃ、もうちょいマシな名前名乗れただろうが」
「また言われた……」
「あはは、そりゃあ言われますよ。まあ、私は結構可愛いと思えてきてますけど」
アリアが言いながらキコリの頭を撫でると、店主が呆れたように溜息をつく。
「お前が珍しく連れてきたと思ったら……キコリに入れ込んでんのか」
「ふふふ、可愛いでしょ。あげませんよ」
「おいキコリ、身の危険を感じたら逃げろよ」
「失礼な。純粋にお姉さんぶってるだけですうー」
「あ、あはは……」
すでに色々と恩を受けているキコリとしては何も言えず笑ってごまかすが……そんなキコリに、武器屋の店主が「ミルグだ」と言い放つ。
「え?」
「俺の名前だ。ミルグ。この町じゃ古株でな。まあ、武具なら俺の所に来れば間違いねえ」
言いながら、キコリの斧に視線を向ける。
「その斧も言っちゃ悪いが安物だし……そりゃ材木用だな? 早めに稼いで買い替えるんだな」
「はい、分かりました」
「よし、そんじゃ行ってこい。アッサリ死ぬんじゃねえぞ」
「ありがとうございます。頑張ります」
「ハッ、俺のとこで防具買って即死なれたんじゃ看板に関わるんだよ!」
そんな応援を受けながらキコリはアリアと武具店を出て。
「それじゃあキコリ、私もそろそろ出勤なので。頑張ってきてくださいねー」
「はい、色々ありがとうございました!」
アリアを見送り、キコリは再び英雄門へと向かう。
防具をつけたせいか、自然と背筋も伸びた気がした。
ようやく「冒険者」の仲間入りを出来た気分……というのが正しいだろうか。
衛兵に会釈して、森の奥へと進んで。
「……!」
茂みから飛び出してきた角兎を、レッグガードをつけた足で蹴り飛ばす。
瞬間的な行動だったが……一気にザッと血の気が引く。
今のは恐らく、斧を下手で振るうのが正しかった。
なのに、衝動的に足で対処しようとした。
結果としては正解だったかもしれない。
しれないが……蹴り飛ばされた角兎は、未だ健在。
「気を引き締めろ……! 俺は、殺し合いに来てるんだ……!」
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