確かに、これなら
用意されていた寝巻はかなり上質な、それこそキコリの服よりも上等な布で作られたものだった。
そんな寝巻を纏ってお風呂場を出ると、アリアが近寄ってきて匂いをフンフンと嗅いでくる。
「うん、ちゃんと綺麗になってますね」
「ええっと」
「服はさっき洗って干しましたから、朝には乾くと思いますよ」
「ありがとうございます」
「でもまあ、服も替えを買っておくべきですね。荷物にはなりますが、重要なことですよ」
「そう、ですね。定宿を決められるようになったら」
「ええ、それがいいです」
一泊1000イエンの雑魚寝の宿でそんなものを持っていても、狙われる確率を上げるだけでしかない。
せめて個室、それもちゃんと鍵のかかる部屋を数日単位で借りられるようでないと、そんな余裕のある生活は危険度が増すだけだ。
「じゃあ、私もお風呂入ってくるので……その間キコリにはお勉強でもしてもらいましょうか」
「お勉強、ですか?」
「はい、これ。さっき見つけたんですよね」
そう言ってアリアが差し出してきたのは、一冊の本。
やはりタイトルは読めないが……中を開くと、絵が多めの絵本……いや、何かの教本のようだった。
「もしかして、これって文字の勉強用の」
「大正解! それはですね、子供用の教本です。捨てた記憶がないからあるんじゃないかと思ったんですが、やっぱりでした」
「確かに、これなら……」
子供用であろうと読めないのに変わりはないが、絵があるので「何を現わしているか」は分かる。
そこから「たぶんこうだろう」と単語を推察することくらいは出来るので、それを繰り返していけば読む事も可能であるように思えた。
「ありがとうございます。早速読んでみます」
「うんうん。後でテストしますから、しっかり読んでくださいね」
「あ、あはは……頑張ります」
お風呂場に消えていくアリアを見送ると、キコリは床に座って本を読み始める。
「これは……馬だよな。こっちが牛……これが薪、かな? そうなると……」
よく出来ている、とキコリは思う。
この世界に生まれてから文字など習う機会もなかったし、実際神官でもなければ文字を習っても意味のない生活形態だった。
しかし、冒険者生活には文字の理解は必須だ。
初日に渡された薬草採取の紙ですら、まだ内容を理解できていないのだ。
文字を読めるようになれば……出来る事は増える。それは確実だ。
「これは剣? いや、武器か? 武器じゃないよな。すると、これで剣って読むのか……」
楽しい。ワクワクする。
そんな原初的な気持ちを味わいながらも、キコリは本に没頭していった。
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