中々頑固ですねえ
そうして英雄門を通り町に戻ると、すっかり夜が近づいていて……キコリ達がちょうど通ったその後に、門扉を閉め始めているのが見えた。
「あれ、門を閉めて……」
「ああ、見るの初めてですか? 夜になると何かが来ても対処しにくいですからね。ああして門は閉めちゃうんですよ」
「でも、そうすると夜に戻ってきた人はどうするんですか?」
「門の上の見張りに呼びかけるんですよ。開けてもらえます」
なるほど、確かにそれなら安心だが……もし何かあって町に逃げ込みたいという時には中々辛そうだな、とキコリは思う。
勿論、そうならないのが一番なのだろうが……。
「冒険者ギルドは何かあった時の為に夜遅くまでやってますけど、基本的にどのお店もこのくらいの時間には閉めちゃいますからね」
「えっ」
「冒険者ギルドで魔石の買い取りはやってても武器の買い取りはやってないですからねえ……それにこの時間だと今頃一晩1000イエンの宿屋もギュウギュウ詰め……泊まれるかどうかは謎ですね」
「な、なら」
「2000~3000台の宿も一杯でしょうね。駆け出しを抜け出た頃からベテランになるまで一番使う宿ですから」
「うぐっ……」
つまり今日換金できる分の稼ぎを全て使ってもどうにもならないということだ。
なら野宿しかないが……どうしたものか。
考えるキコリの顔を、ニヤニヤ笑いでアリアが覗いてくる。
「どうします、キコリ?」
「……英雄門の近くなら最低限の安全性はあるような気がします」
「そうきますかー」
「え、でも」
「まあ、いいでしょう! 自分の力で生きようとするのは歓迎できます!」
「は、はあ」
「そんなキコリを見込んで、これをあげましょう」
言いながらアリアが渡してくるのは、何かがじゃらりと入った革袋だ。
その中身を知っているキコリは……ぎょっとしたように視線を向ける。
「こ、これってアリアさんが今日狩った分の魔石じゃ」
「そうですよー。角兎4つにゴブリン3つ。合計7000イエンですね」
「貰えません!」
「いいえ、何が何でも貰ってもらいます。これは私がキコリにする投資です」
「投資……?」
「ぶっちゃけて言うと、こんな小銭私には呑み代くらいの意味しかないですし」
「うっ」
「でもこの魔石の稼ぎがあれば、キコリには大きな意味があります」
確かにそうだ。合わせて1万イエン。それだけであれば、この夜を乗り越えさえすれば良い鎧だって買えるかもしれない。
しかし、それでいいのだろうか?
キコリはアリアに何を返せるのだろう?
「ふむ。中々頑固ですねえ」
「だって、俺には何も返せません」
「なるほど、なるほど」
頷くアリアはキコリの手を掴むと、ぐいと引っ張って歩き始める。
「え、あの?」
「もうめんどくさいんで引っ張っていきます。さ、行きますよー」
「え!? ど、何処に!?」
「私の家」
「いや、流石にそれは……!」
「はいはい、行きますよー」
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