我の役目はすでに

「え、ええー……別にあたし、今のところどうにもなってないんだけど」


 オルフェは跪くギエンを見ながらも「どうにもなっていない」自分に違和感を感じていた。

 あのサレナの執着っぷりから見て、何か大きな変化が訪れると思ったのだが……何がが起こる気配すらない。


「ご心配なさいますな。今代におかれましては、正統なる資格をお持ちの方は貴方お一人のみ」

「あ、やっぱりその言い草。問題はあるのね?」

「はい。考えられる原因はただ1つ。あの場に無かった先代の肉体です」


 確かに妖精女王が殺されたのにその死体は無かった。てっきりギエンが何かしたものとキコリたちは思っていたのだが……。


「ギエンが埋葬したとかってわけじゃないんだな?」

「あのようなゴーストだらけの場所でそのようなことをすると思うかね?」

「……そりゃそうか」


 妖精女王の身体がゴーストに乗っ取られるといったようなことをギエンは許容しないだろう。

 そうなると、誰が妖精女王の身体を持ち去ったというのだろうか?


「そもそも、あの場にゴーストが集まっていたのも疑問はある。誰かが集めたのではないか、と我は考えている」


 ネクロマンサー。そんな言葉がキコリたちの中に浮かぶが「とはいえ、ネクロマンサーではないだろう」とギエンが否定する。


「統制された様子が一切なかった。ネクロマンサーの指揮下にあるというのは、そう簡単に統制が途切れるものでもない」

「話が長ぇんだけど。結局どうしたらいいのよ」

「失礼致しました、次代女王陛下。つまるところ、妖精女王の継承を邪魔出来るような者がこの件に関わっております。それをどうにかする必要がございます」


 それは、非常に恐ろしいことだとキコリは思う。

 妖精女王の継承というものがどのようなものかは分からないが、横から邪魔できるというのは……どう考えても、並の相手ではない。ないが、キコリには勝算もあった。


「ギエンなら追えるんじゃないか? 前の妖精女王の危機に馳せ参じたんだろう?」

「普通ならばそのはずだが、答えは『否』となる。前女王陛下との繋がりはすでに感じず、我の本能はこのお方を新たな女王陛下として認識している。つまり……」

「つまり?」

「我の役目はすでに果たされてしまっている。前女王陛下の痕跡を辿るということも出来ん」


 気付けば、ギエンの身体から黒い粒子のようなものが漏れ出始めている。


「新しき女王となられます御方よ、どうぞ警戒を。相手が何者であるにせよ……確かな悪意があるのは間違いありませぬ」

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