新しき女王となられます御方に

 宣言と同時に、ギエンの指から紫色の光が放出されサレナを貫く。

 それはギエンの放った魔法であり、サレナの身体の中を乱反射するように巡り抉っていく。


「ぎ、あ、あああああっ! な、何これ! 何なの!?」

「我がデュラハンだと知ってもコレは知らなかったか? これこそ我が魔法……死の宣告である」


 死の宣告。

 デュラハンが使う固有の魔法であり「相手を殺す」というシンプルな結果をもたらす魔法だ。

 しかし、その過程はあまりシンプルではない。


「これよりゆっくりと時間をかけ、その身体は激しい痛みと共に腐れていく。2つの夜を越えし後、およそ生き物としての尊厳を蹂躙し尽くした死を迎えるだろう。それが貴様の迎える末路だ」

「あ、ああ……なんで、なんでこんな」

「ただし。騎士として慈悲を与えよう。その首を、この場で差し出すならば……せめて尊厳は守られよう」


 ギエンの引き抜いた剣を前に、死の宣告のもたらす痛みに耐えかねていたサレナは……その前にゆっくりと首を差し出して。一撃で、サレナの首が断たれる。同時にサレナの首が青白い光球へと変化して、ギエンがそれを微塵に切り裂いて消し去る。


「……今のは」

「魂をバラバラにした。来世はもう少しマシになって産まれることを祈ろうではないか」

「魂って……そんなこと出来るんだな」


 キコリが思わず後退ると、ギエンは剣を鞘に納め肩をすくめる。


「そんな態度をされるのは心外だ。我は古より続く契約によって現れるモノ……いわばドラゴンとは仲間に近い」

「え?」

「知らぬか。ドラゴンとは即ち世界の守護者。世界を破滅に導くモノを焼き尽くすが定め」

 とはいえ、とギエンは続ける。

「ドラゴンも数が増え長き時を重ねた。その役目を果たせるか怪しいモノもいるが……」


 言いながら、ギエンはキコリをじっと見つめる。


「定めを知らぬ若きドラゴンよ。行く道はきっと苦難と苦痛に満ちているだろう。同情する」

「やめてくれよ……呪いみたいだ」

「間違っても祝福など出来ん。そんな無責任なことはな。しかし、助言はしよう」

「……一応聞くよ」

「他のドラゴンを信用しすぎるな。先程も言ったが、すでに役目を果たせるか怪しいモノもいる」

「心に留めておく」

「そうするといい……ん?」


 バシャッという水音。オルフェとドドが水中から上がってきたのを見てギエンが「おお……」と声をあげる。


「げっ、デュラハン!」

「むっ」


 オルフェとドドは警戒した視線をギエンへ向けるが……ギエンはその場に跪き、存在しない首をたれるような姿勢をとる。


「……新しき女王となられます御方に、妖精騎士ギエンがご挨拶致します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る