貴様の死を宣告する
妖精騎士秘伝魔法フェアリースラスト。
それはその名の通り「秘伝」……すなわち伝承される魔法だった。
以前キコリが飲んだ「妖精の星」と同様のものを先程フェイムがキコリを助け出した最中で……フェイムから託されていた。
そう、フェイムは「騎士」として死に場所を決めていた。だからこそキコリにフェアリースラストを会得できる妖精の星を作成して渡し、最後にそれを使ってみせた。
勿論、キコリではそれを充分に使うことはできない。できないが、それでも充分だ。
無茶をすることによる有り余る魔力を注ぎ込めば、充分な威力を持った一撃を繰り出せるのだから。
そして、その一撃は……確かに、サレナを貫いた。
「か、はっ。あ、ああ……っ!」
地面に落下して、それでもサレナは這って逃げようとする。
キコリのフェアリースラストがサレナの急所を外れたせいか、あるいはサレナが自身をこの瞬間も回復しているのか……とにかく、まだ生きている。
「何処へ行く?」
キコリはサレナの逃げようとする先に回り込み、斧を突きつける。逃がすつもりも許すつもりもない。
「なんでなの。私はただ、幸せに! 人間の中で静かに暮らしたかっただけなのに!」
「無理だよ。人間の世界はお前が思うより汚いぞ」
「アンタに、何が……!」
「分からないかもな。確かに親切な人もいるから。俺が思うよりもずっと綺麗で、輝いてるのかもしれない。俺が生きるのが下手だから、汚いところばっかり見えてるのかもしれない」
言いながら、キコリは木札を取り出す。それは、キコリがギエンから……デュラハンから受け取った、あの木札だ。それを手に、キコリは念じる。殺すべき相手が、此処に居ると。
「……でもそれはそれとして、お前は死ね」
何処かから、馬の蹄の音が響く。軽やかに、けれど何処か不穏を感じる響きで。
そうして現れるのは黒い靄を纏った馬と……騎乗する、首のない鎧騎士。
デュラハン。死を運ぶ妖精騎士。女王の危機に馳せ参じるもの。
それは何処とも知れぬ場所からゆらりと現れて、キコリとサレナを見る。
「デュ、デュラハン……?」
「おや、我を知っている? それでキコリ。今回の用向きはソレでいいのだな?」
「俺が殺そうと思ってたんだけど。アンタを抜きじゃダメかと思った」
そのキコリの言葉に「おや」とギエンは呟き……静かな声で「なるほど」と呟く。
「ああ、理解できたよ。つまり、ソレか原因は」
「そうなる。事情は聞いてたし、勝手にトドメを刺すわけにもな」
コレがあるしな、とキコリは木札を振って見せれば、ギエンはクックッと笑う。
「まさか侘びの品でこんな大きな借りを作ってしまうとはな。しかし、深く感謝する」
ギエンは馬から降り、一歩ずつ……ゆっくりと、サレナへと近づいていく。
「ま、待って。待ってよ。私、貴方には何も」
「黙れ。そして聞け。今、我は此処に……貴様の死を宣告する」
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