フェアリースラスト

「あ、あああ……ああああああああああ!」


 爆発に呑まれながらも、サレナは必死でその中を飛翔し抜け出す。


「イカレてる……イカレてる! 何なのあれ、何なのあの無様でロクでもない……非常識な魔法! あれだけの魔力をあんな魔法に注ぎ込んだの!? 私に当てる為だけに⁉」


 有り得ない。常識では有り得ない。そして、あまりにも才能がない。

 あれだけの魔力を使ってあの程度の威力しか出せないなんて。

 でも、それでも。そんなバカみたいな魔力を何の躊躇もなく使ってきた。

 それもサレナに「当てる」ためだけにだ。イカレている。そうとしか言いようがない。

 怖い。怖い。怖くてたまらない。

 理解が、出来ない。サレナにはキコリという「生き物」が全く理解できなかった。

 だから、逃げた。

 大丈夫、やり直しは幾らでも出来る。また未来を見て、確実な手を打てばいい。

 何度でも、何度だって再挑戦できる。

 サレナはそのまま湖を越えて陸上まで戻って。


「ミョルニル」

「ぎああああああああああ!?」


 背後から飛んできた斧にバリアを破られ、流れてきた電撃に身を焼かれた。


「あ、あああああ……」


 居る。当然のようにキコリは追いかけてきている。自動で戻っていく斧を、再びその手に。


「逃がさない。お前は、絶対に殺す」

「なんでよ!? なんで私を……! バルムンク!」

「効かないって言っただろ」


 サレナが放ったバルムンクを斧で弾いたキコリが、つまらなそうにそう言い放つ。


「なんでアンタみたいなのがいるのよ! 私の、私の未来予知は完璧だったのに!」

「実際、凄かったと思うぞ。俺1人だったら、何度も死んでたと思う」


 それは何の誇張も含まない、キコリの素直な感想だ。だからこそ、サレナの神経を逆なでした。


「このっ……! そもそも、なんでドラゴンが妖精と一緒に居るのよ!」

「なんで、か」


 キコリはその言葉に少しだけ考えるような様子を見せ……フッと笑う。


「どっちかといえば依存してるのは俺だよ。オルフェが居ないと、どうしようもない奴だからな」

「馬鹿に、して……!」


 サレナは自分でも抜け目のない方だと思っている。だからこそ、この会話の間にも魔力を練っていた。

 先程キコリが見せた、ろくでもない魔法。魔力の大きさだけで成立させた巨大なグングニル。

 そして、それは。サレナに1つのヒントも与えていた。

 すなわち……もっともっと、バルムンクに魔力を。もっともっと、高い凝縮率を。

 ドラゴンの鱗を貫くための高い貫通力を。そしてそれは、成った。サレナは間違いなく魔法の才能があり、だからこそ此処まで来た。だからこそ。


「私は、絶対に妖精女王になる。トロールを……捨てる」

「こっちに関わりが無けりゃ、放っておいたんだけどな」

「死になさい」

「そっちが死ね」


 サレナが魔力を凝縮させて。キコリは親指程の大きさの青い半透明の玉を飲み込む。


「……それ、何」

「さあな。すぐに分かるさ」


 斧を構えるキコリに、サレナは舌打ちする。

 大丈夫、確信できる。これなら今のあのドラゴンだって……貫ける。


「ネオ・バルムンク!」


 放たれた輝ける光の剣を迎撃するようにキコリは跳ぶ。それを見て、サレナは勝利を確信して。


「妖精騎士秘伝魔法」

「は?」


 キコリが斧を「突き」の態勢にしていることに、意味が分からず……けれど、すぐに理解する。

 そうだ。アレは、あの魔法は見た。アレは魔力の刃を刺突の形で放つ魔法。

 つまり、キコリが繰り出そうとしているのは!


「フェアリースラスト」


 フェイムのそれとは違う、極太の魔力の刺突が……ネオ・バルムンクを砕いた大爆発の中で、サレナを深々と貫いた。

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