才能の無さ故に

 殺した、だろうか。いや、油断してはいけないとサレナは気を引き締める。

 先程それで妖精相手に失敗したばかりなのだ。

 油断などしないと、そう考えるサレナの耳に何かの飛来音が聞こえてくる。

 即座の判断でバリアではなく、サレナは上へと飛んで。その僅か下を電撃纏う斧が通り抜けていく。

 危なかった。そう、安堵して。眼下の湖へ降りていくキコリを見つけ、勝利の笑みを浮かべる。

 流石に落下中では避けられない。ならば、これで。


「バルムンク!」


 放った竜殺の剣はキコリへと真っすぐに吸い込まれるように飛び……キコリは手の中に生み出した斧で、煩そうにそれを打ち払う。

 その爆発の中から跳んでくるキコリに、サレナはゾッとする。

 今ので分かってしまった。キコリに、バルムンクがすでに効いていないということを。

 何故、何故なのか。先程までは必殺であったはずなのに。


「どうして!? なんで私のバルムンクを!」

「ああ。それはもう効かないんだ……無茶の度合いを上げたからな」


 以前であれば命の危機に陥ったレベルでのチャージをキコリは惜しみなく行っていた。

 この場に及んで出し惜しみするなら、そんな奴はもう死んだ方がいいと。キコリはそう思うからだ。

 だから、効かない。かつてヴォルカニオンがそう語ったように。ドラゴンがその気になれば、竜殺の剣など……そんな魔法は通用しない。

 ましてやドラゴンの中では格段に才能の無いキコリであっても、自分の命を危険にさらす程の無茶をすればその程度までは引き上げられる。だが、それでも。


「それでも! アンタのその斧は私には届かない!」

「ああ、そうだな」


 そう、そうなのだ。如何にキコリがフェアリーマントの力を使い水面を跳ね空へ跳ぼうと、飛べないのであれば然程意味はない。斧は、届かない。ミョルニルですらサレナは見てから避けられる。

 けれど。相手が避けるというのであれば、避けられないものであればどうか。そう、たとえば。


「グングニル」

「ヒッ……!」


 見るものが見ればソレは、如何にキコリに才能がないかのこれ以上ない証明であると分かるだろう。

 バヂバヂと魔力をスパークさせる、圧縮も何もない不格好な輝ける槍。

 けれど。見るものが見ればソレは、ひどく恐ろしいものであると分かるだろう。

 有り得ない程の……キコリがドラゴンとしてのチャージ能力を使い作り出した、無理矢理一定の威力にする為だけに作られた超非効率的な、超贅沢な魔法。

 才能の無さ故に巨大化するしかなかった、人智を超えた理不尽。それを為すために簡単に命を賭け金に放り出す、バーサーカーとしての倫理。


「これなら届くだろ」


 水面へと落ちていきながら投擲された巨大なグングニルは……サレナに避けることすら許さず、大爆発の中へと呑み込んだ。

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