実際バカにされてるんだよ

 それが何のことかは、聞くまでもない。魔王軍の話だろう。とはいえ、だ。


「……魔王軍のことなら、俺は関わりたくないぞ」

「さっき絡まれてたのに?」

「そこから見てたのかよ……」


 答えず微笑むだけのシャルシャーンだが、なるほど確かに「何処にでもいて何処にでもいない」ドラゴンだったな、とキコリは思い出す。シャルシャーン相手に隠し事だの事情の説明だの、そういうのはするだけ時間の無駄だ。


「とにかく、俺は関わらないつもりなんだ」

「無理だと思うなあー」


 わざわざ言い換えたのに、シャルシャーンは小首を傾げるようなわざとらしいポーズをしてみせる。

 まるで馬鹿にしているように見えるが、実際馬鹿にしているかもしれないし、そこまでいかずともからかっているかもしれないし、素かもしれない。どれでもおかしくないが、まあひとまず怒ってもそよ風ほどにも気にするとも思えない。


「シャルシャーン」

「なにかな?」

「何か知ってるなら素直に教えてくれ。俺は別に我慢比べがしたいわけじゃないんだ」

「うーん、そうだねえ。といっても今更な話だからなあ」

「今更って……何があるっていうんだ?」

 

 キコリが聞けばシャルシャーンはキコリをピッと指差す。


「君、ガッツリ狙われてるんだよねえ……ほら、君ってば会いに行ける系の人格者なドラゴンだし?」

「俺が人格者かはさておいて、会えるかどうかならアイアースも同じ家に住んでるぞ?」

「いやー、実はそれもビックリしたんだけどそれはさておいてさ。アイアースはちゃんとヤバいって分かるからね」

「意味が分からん」

「アイツは変な提案したら即座に殺しに来るけど、君はそんなことないだろ?」


 まあ、確かにそんなに即座に殺そうと決めたりはしない……だからキコリに交渉しにきた、というのはキコリにも理解できる。


「つまりアレか。俺なら説得できそうだし、ひとまず殺されそうにないから交渉しに来た……と」

「もっと言うと、がっつりナメられてて口先三寸でもどうにかなりそうって思われてるってことだねえ」

「いや、まあそうなんだろうけどさ……言い過ぎじゃないか?」

「お? 庇う? そういうとこだぞ?」


 すでにシャルシャーンがこちらをからかいにきていると感じたキコリが大きく溜息をつけば、シャルシャーンは肩を竦めてみせる。その表情は笑顔のままだが……何処となく、冷たい雰囲気を持つものに変わっている。


「まあ、実際バカにされてるんだよキコリ。ドラゴンという看板が欲しい連中にとって、君は特にリスクもなく勧誘できるお手軽な相手ってわけだ」

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