君が世界に果たすべき責任などというもの

「異世界、か」

「おや、そんなに驚かないんだね?」

「ああ」


 なんとなく、そんな気がキコリはしていた。

 世界を巡る状況、何度も出会う転生者……そして転移者だというアサトの存在。

 これだけ「そういう存在」に出会い、そのほとんどが何かしらの問題を引き起こしていた。

 ならば、その魔王だとかいうよく分からないものに関しても、そういう存在が関わっていると考えるのが普通だ。


「もう転移者には1人会ってる。そいつは悪い噂だけで本人はたいしたことは」

「んー、アサト? あいつは結構外道だよ? 逆らう奴は大抵殺してるからね」

「あー……そうか、真実だったか……」

「元の世界に帰るためにボクを探してるって話も知ってるけども。ま、戻せるわけないんだよねー。可能不可能はさておいても、あんな危険人物をどっかにポイとか無責任が過ぎるでしょ」

「確かにな。でもグラウザードだったらその辺出来ちゃうんじゃないか?」

「無理じゃないかなー? あいつ、確かに異世界には行けるけど何処の異世界とか指定できるわけじゃないし」


 海図を持たずに海に出るようなもんだよ、とシャルシャーンは笑う。


「ま、そっちはボクが監視してるから心配は要らないよ。いざって時は殺すから」

「……それもどうなんだろうな。こっちに来たのは自分の意志じゃないだろうに」

「こっちで暴れたのは自分の意志だろ? 好き勝手に生きるのは自由だ。でもそれは責任を一切とらなくていいってわけじゃあない」


 まあ、それはその通りだろうとキコリも思う。相手を殺そうとすることは、相手に殺される可能性を受け入れることだ。キコリとて、殺すか殺されるかの領域で戦うバーサーカーであるからこそ、それは身に染みている。


「異世界の人間……か。なんでそうなるんだろうな」

「そうなる素質があるのを引き込んでるんだろうね。それ自体は主犯を思えばおかしな話じゃあない」

「……それを俺の前で言うか?」


 その主犯とやらはキコリの「前世」なのだ。何と返事しても角が立ちそうだ。

 しかし……シャルシャーンはからかっているわけではなく、ひどく真面目な表情だ。


「キコリ。君が世界に果たすべき責任などというものは存在しない。それはこのボク『不在のシャルシャーン』が保証しよう。ドンドリウスの言葉に、あまり引きずられ過ぎるなよ?」

「前世の俺のやったことが、未だ世界を蝕んでいたとしても?」

「そんな単純な問題じゃないんだよ。それに、君が今気にすべきはそこじゃあないんじゃないかな?」

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