幸薄そうな顔しとる
正直、あまり良い状況ではない。キコリはそう思う。
思い出すのは、獣人の国の防衛都市イルヘイルに行ったときのことだ。
あのときは普人への蔑視でかなり面倒なことになったし、冒険者ギルドの職員もそっち寄り……どころか、むしろ敵だった。
最終的にはどうにかなったとはいえ、あまり愉快な記憶ではない。
ドワーフが「他の種族を見下している」という本の記述が事実であるならば、またイルヘイルのときのようなことが起こっても何もおかしくはない。
しかし……折角見つけた人間の町の手がかりであり、何よりも人類とモンスターで協力しなければというときにドワーフを避けて通るわけにもいかないだろう。
「うーん……行くしかないか」
「他にどんな選択肢があるのよ」
「見なかったことにして別の……普人の……ニールゲンに行きあたるまでいてっ」
「アホ言ってないで行くわよ。つーか人間嫌いのあたしにこんなこと言わせてんじゃないわよ」
「……まあな」
要はオルフェのほうが大人ということなのだが、キコリがオルフェならそう言ってくれると無意識下で考えてそういう言動をしているということでもあったりする。
自分を正しく導いてくれる相手。キコリはオルフェをそういう風に考えているのだ。
とにかく、そうと決まれば行動は早い方がいい。まさか人前で飛ぶわけにもいかないので、キコリは「採掘」を終えて帰っていくドワーフたちの下へ「おーい!」と声をあげながら近づいていく。
するとドワーフたちはキコリとオルフェを見てギョッとした表情になるが、すぐに冷静さを取り戻し……しかし、油断なくツルハシを構えていた。
「待て、そこで止まれ」
「ああ、止まるよ。でも俺は敵じゃない」
「そうなのかもしれんが、妖精を連れている。そんなもんは吟遊詩人の歌でしか知らん」
たぶんそれはキコリのことかもしれないが、そうではないかもしれないのでキコリは「そうか」とだけ頷く。
「その鎧も斧も……かなりの業物に見えるが、何やら近づきたくない気配もある。マジックアイテムであるにせよ、ロクなものではあるまい」
「そんなこと言われてもな……」
レルヴァメイルとドラゴンメイルのどちらが良かったかは正直分からないが、鎧の気配がどうのと言われるのであればドラゴンメイルをどう言われたか分かったものではないからレルヴァのほうで正しかったのかもしれない。
「おいダン。そのくらいにしとけ」
キコリにツルハシを向けていたドワーフ……ダンというらしい男に、別のドワーフが肩に手を置く。
「確かに鎧も斧も妙な気配をもっとるが、見ろ……幸薄そうな顔しとる。悪人ではないんじゃないか?」
「むう……確かにそんな顔だが……」
「……そんな顔か?」
「幸薄いのはホントでしょ」
否定できない。オルフェの迷いない返答に、キコリも否定する材料が一切ないのは……まあ、確かなのだ。
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