予測など不可能
「えーと、何処まで話したかしら」
「トロールの凄すぎる行動予測について」
「ああ、そうだったわ」
そのまましばらくギャーギャーとやっていたオルフェが、キコリの頭の上に座りながら大きく息を吐いて息を整える。
「ふー……つまり、トロールどもは此処にいた連中を皆殺しにして泥を纏って待ち伏せする程度には『妖精女王があの日、あの時にあの森を通る』っていう確信があったのよ」
言われてドドとフェイムは疑問符を浮かべ……その表情は、すぐに驚愕のものへと変わる。
「待て。それはドドが考えるに、あまりにも」
「有り得ない! 私たちは女王の指示で進んでいたし、誰もその行く先を知る者は居なかった! 予測など不可能なはずだ!」
そう、有り得ないのだ。たとえば妖精女王が何処かを目指していて、妖精女王の一行にスパイでもいたのであれば話は変わってくる。
しかし「誰もその行き先を知らない」のであればスパイのしようもない。
明確に目指す先がないのであれば、予測など出来るはずもないからだ。
だというのに、トロールは予測してみせた。それはハッキリいって、未来予知じみている。
あまりにも、有り得ない。それよりはダンジョンの中を何かしら把握する手段を持っていたと言われた方が現実味がある。
「その不可能をトロールはやってのけたんだ。勿論全部賭けで大博打だった可能性もあるけど、な」
言いながらキコリは「それはないだろうな」と思う。此処に居た者たちを皆殺しにする程度には、トロールには確信があったと考えるのが自然だ。
「オルフェ。そういうことが出来るような魔法って……有り得るか?」
「出来ないとは言わないわ。あらゆる全ては『今はない』ってだけだから。でも……うん、相当に繊細な魔法のはずよ。その魔法があるなら、たぶん隠された秘術か革新的な新魔法のどっちかね」
「その理由は?」
「妖精がそんな魔法を知らないからよ」
自信満々に言い放つオルフェにフェイムが頷き、キコリとドドが遠い目になる。
魔法に関するアレコレだと妖精は物凄く傲慢な一面を見せる。
まあ、傲慢になるだけのものはあるので仕方ないといえば仕方ないのだが。
「よし、じゃあ『トロールは何かしらの超広範囲の監視魔法を持っている』という前提で行動しよう」
「行動すると、どう変わる?」
ドドの当然の問いに、キコリは真面目な調子で頷く。
「待ち伏せなり逃亡なりをされてる前提で、真正面から食い破る」
「待ち伏せされているかも」と警戒するだけで、大分心構えが変わる。
頼りになる仲間たち……フェイムは員数外だが、とにかく頼りに居る仲間たちがいる現状、そして今後のことを思えば、此処で引くという選択肢だけは有り得ないのだから。
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