そんなもんだろ

 生きている町。

 相変わらずのその場所には水商人が居て、何人もの冒険者が出入りしていた。

 そうして町の中に足を踏み入れると、生きている石やら包丁やらが襲ってくる……ということはなくて。


「……あれ?」


 キコリが首を傾げる程度には、何もない。

 道を歩けば時折生きている石が襲ってきたりはするが、家の中から生きている包丁が飛んできたりはしない。

 しばらく歩いてみても、それは同じだ。


「……?」


 やはりあの時だけが変だったのだろうか?

 キコリがそう思ってしまう程度には何もない。

 あの日生きている包丁がこれでもかと襲ってきたのは、本当に一体何だったのだろう?

 首を傾げつつも、キコリはオルフェへと視線を向ける。


「噂の武具屋とか見に行ってみようか」

「まー、この調子なら大丈夫そうだけど。前回が前回だっただけに、逆に不安ね」

「すげー分かる」


 言いながら歩くと、獣人の冒険者のパーティーとばったり出会う。

 犬獣人にサイ獣人、熊獣人といった構成の彼等はキコリを見るを目を見開き……やがて「よう」と手を上げる。


「どうも、こんにちは」


 その事実にオルフェが胡散臭そうな顔をして、キコリ自身少し戸惑うが……サイ獣人が「あー……」と何かを言い淀むように鼻先を掻く。


「ソイルゴーレム狩りとか、見てたよ。強ぇな」

「ありがとう……?」

「そんだけだ。じゃあな、頑張れよ」


 そのままキコリの横を彼等は歩き去っていくが……オルフェは始終胡散臭そうな表情のまま彼等を見送って。


「……何あれ」


 そんな、あまりにも当然すぎる反応を口にする。

 あれだけ蛇蝎の如く嫌ってたくせに、何なのか。

 そう口に出さなかった分、オルフェも丸くなったと言えるが……あと少しで言っていたかもしれない。

 そんな様子が手に取るように分かる分、キコリも苦笑する。


「挨拶だろ」

「そんなもんしなかったじゃん、今まで」

「少しずつでも変わろうとしてるんじゃないか?」


 たぶんだが……キコリ本人を嫌い続ける理由が無くなってきているのではないだろうか、と。

 キコリはそんなことを思う。

 竜神官と仲が良いのもそうだが、この町でキコリは初日の大騒ぎを除けばストイックに仕事をしている。

 必要な物を買い、余計な騒ぎを起こさず、冒険者としてやるべきことをやる。

 その上で結果を出していれば……それに何かの文句をつけ続ける程格好の悪い事は無い。

 あるいは鎧の剣士という襲撃者に襲われて死にかけてもまだ此処に残っていることが彼等の琴線に触れたのかもしれない。

 その辺りは想像するしかないが……とにかく、何かが少しずつ変わりつつあることだけは、確かであるようにキコリには思えていた。


「納得できないんだけど」

「人間関係なんてそんなもんだろ」


 まあ、オルフェたち妖精との出会いも致死級の攻撃だったことを思えば……キコリとしては本当に「そんなもん」だったのだが。

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