それが第一歩

 翌日。英雄門へと向かう道すがら、キコリは「目標を決めたよ」とオルフェに切り出した。


「はあ?」

「だから、目標だよ。俺が『先』に進む為に必要な物だ」

「アンタ、そんな面倒な事考えながら生きるの?」

「面倒って……」

「まあ、いいわ。何なの、目標って」

「とりあえずは、世界樹だ。アリアさんの身体を治して、その後は……俺の同族を探してみようと思う」

「は? ……いや待った」


 オルフェは周囲を見回すと路地裏まで飛んでいき、誰もいないことを確認した上でキコリを手招きする。

 キコリが路地裏に行くと……オルフェはキコリの耳を引っ張りながら小声で叫ぶ。


「バカなのアンタ! それってアレでしょ? あのデカくてヤバいのを探すっていう! そもそも道端でする話かバカ!」

「まあ、そうだな。まずはヴォルカニオンに会って、それから他のドラゴンにも会ってみたい」

「会ってどうすんのよ」

「確かめたいんだ。今の俺が『どっち』なのか」

「……!」


 オルフェは、気付く。キコリ自身、人間社会とのズレを感じているのだと。

 当然だ、ドラゴンになる前は人間だったのだ。

 それまでの思考や行動とズレが生じれば、自分は何なのかという問いに行きつく。

 人間なのか、ドラゴンなのか。自分がどちらに親しみを感じるのか。

 それを確かめたいという想いは、当然出てくるだろう。


(……危険って言ってもやめないんでしょうね)


 キコリは意外に頑固だ。しかも自分の「正体」を知るためのものとなれば、やめるはずもない。

 オルフェは小さく溜息をつくと、キコリの耳を離す。


「ま、仕方ないわね。付き合ってあげる。で、世界樹の場所に検討はついてんの?」

「分からないから聞きに行こうかな、と」


 つまりヴォルカニオンに聞きに行こうとキコリは言っているのだとオルフェは察する。

 何かあれば焼けばいいと思っている、あの爆炎のヴォルカニオンにだ。

 かろうじて会話をしようという意思を持っている程度の、あのヴォルカニオンにだ!


「……アンタがちゃんと話しなさいよ。アタシ口は出さないわよ? 死にたくないもん」

「分かってる。でも俺も変わったからな……向こうがどう出てくるか分からないな」

「げえ……」


 キコリが前にヴォルカニオンと会ったのは「ドラゴンになる前」……正確には「ドラゴンになりかけ」の頃だ。

 完全にドラゴンになった今のキコリにどんな反応をするかは未知数だ。

 しかしまあ、それが第一歩なのだ。


「行こう、オルフェ」

「はいはい」


 まあ、覚悟を決めるしかない。

 オルフェは先を歩くキコリの後をついていくように飛んでいく。

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