ハイオークのドド

 フレインの町の鍛冶屋、オーク武具工房。名前の通りにオークを中心として武器防具を製作している工房では、ドドが1本の剣を打っていた。

 ギィン、ギィンと製錬の音が響き、やがてドドは出来上がった剣を見つめる。


「良い剣だ。流石はハイオークのドド」

「ありがとう、ザザ。しかし、これでは最高の剣とはいえないだろう」


 オークの作る武器防具は、モンスター製のものとしては高い品質を誇る。それはモンスター側の事情など欠片も知らない人間からしても「オークの作ったものだ」と分かる程度には性能が高い、取り回しが良く、安定性を重視した武具だからだ。

 それはオークという種族の器用さと知能の高さを示しており、実際にオークの集落はその知能の高さをよく示しているとされる。

 そしてフレインの町という多種族での生活の場を得て、フレインの町のオークはその知性を更に研ぎ澄ますことができていた。

 だからこそザザと呼ばれたオークも、ドドの言わんとするところを察するだけの機微を身に着けてもいた。


「最高の剣、か。ドドが言うのはドラゴンの爪と比べての話なのだろうが、それは高望みでは?」

「いいや、ザザ。ドドたちは鍛冶師であるのならばドラゴンであろうとも目標にしなければならない」


 そう、ドドは自分の無力さをよく知っていた。どれだけ良いものを作れたと思えても、ドラゴンほどの圧倒的な力の前では等しくカスに過ぎない。

 それをこれ以上ないくらいに思い知ったからこそ、ドドは強い武具の開発に情熱を注いで。オーク武具工房でも上位の実力と言われて尚、ドドは何1つ満足できていなかった。


「……剣の切れ味には限度がある。耐久性も、柔軟性も、取り回しも。全てにバランスが存在するからこそ、その全てを限界まで高めることは……不可能だ。そしてそれは全ての武器防具で同じことがいえる」


 剣は全ての武器の基本だと言われる。だからこそドドは数多くの剣を作ったが、「最強の武器などというものは存在しない」という当たり前の事実を確認しただけだった。

 武器にせよ防具にせよ、基本性能は材料の特性に依存する。だからこそドラゴンに届かない。ドラゴンは最高を与えられし者たちであるからだ。

 そして、そのドラゴンと渡り合う破壊神……そんなものに対抗できる武具などあるはずもない。


「ドドは……何をしているのだろう。友のためにドドが出来ることは、何1つないというのか……?」


 悩むように椅子に座り込んだドドにザザが何か声をかけようとして……表の店舗からかけられた声に「ん?」と振り向く。


「おーい、ドド! ドドに知らせだ! 『キコリが目覚めた。すぐ戻れ』だと!」


 その言葉にドドは立ち上がり、全速力で工房を飛び出ていた。

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