気のせいじゃないよ

 アリアの話を思い出しながら、キコリはクーンと共に狩りをしていた。

 いつもより少しだけ奥に進んだが、角兎の数は少なく……ゴブリンがチラホラと出てくる程度だ。

 それでもある程度の魔石を手に入れて、2人は休憩をとっていた。

 そんな折、クーンが言い出したのだ。


「やっぱり僕ら、もう少し先に進んだほうがいいよ」

「……だよな」

「正直に言って、ここでの稼ぎは今凄い少ない。で、キコリが此処で狩りをしてるのは非常に外聞が悪い」

「ゴブリンジェネラル倒しちゃったもんな……」

「まさにその通り。新人だから、実力ないから此処で狩ってるんです……っていうのが通用しない。新人の稼ぎ奪うのはどうかって諭される立場になっちゃったからね」


 そう、そうなのだ。

 ゴブリンジェネラル討伐による報酬は、正直大きなものだった。

 キコリの下げている冒険者用のプレートも青銅から鉄製になったくらいだ。

 斧も2本ともマジックアクスになっている。

 此処で狩りをするにはハッキリいってオーバースペックな装備ではある。

 無論、どんな装備をしていても角兎にアッサリ殺されたりもするが……そういう問題ではない。

 今のキコリがこんな場所でゴブリン狩りをしているのは、非常に外聞が悪い。そういうことであるらしい。


「でもこの先ってオークがいるんだろ?」

「いや、しばらくはゴブリンの勢力圏かな。ホブゴブリンが多くなってくるはず」

「ホブゴブリンかあ……」

「正直キコリ、かなり強くなってるから心配はしてないけど」

「ん、それはまあ」

「ギイイイイ!」


 隙だらけと見て取ったのだろう。襲ってくるゴブリンを、キコリのマジックアクスが首を一撃ですっ飛ばして仕留める。

 それはマジックアクスの力もあるだろうが……やはり一番大きいのは。


「……なんか、単純に力が上がってる気がするんだよな」

「気のせいじゃないよ、それ。キコリの魔力の総量がちょっと上がってるのと、ルナイクリプスの想定外の副作用ってところかな」

「……今なんて?」

「ほら、ルナイクリプスで『魔力による身体強化』がかかった状態で散々魔力を身体に取り込んだんでしょ? たぶんそれで、魔力で身体強化するのを身体が覚えたんだと思う」


 まあ筋肉がちょっと増えたようなものだよ、とクーンは説明する。


「それって……今までよりずっと魔力の運用が厳しくなるってことじゃないか?」

「心配は要らないと思うよ。でも……」

「でも?」

「これからキコリの魔力が成長しても、そっちに回される可能性はある、かな……」


 どうやら、チャージに頼らずにキコリが強い魔法を使えるという未来は……ない、らしい。


「……もうちょっと奥行ってみるか」

「そうだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る