世界が違えば法則が違う

「死んだ、か。それで放棄された……まあ、有り得ない話じゃないな」


 その割には死体が無いが、誰かが見つけて埋葬したとか……まあ、そんな可能性もあるかもしれない。

 あるいは、完成したからと何処かに持ち出して、それで死んで帰ってこなかった可能性の方が高いだろうか?

 どちらにせよ、この場所に今主人がいないこと、そして戻ってくる可能性が低いことは確かだ。

 そしてキコリは……その筒を手に、異世界でのことを思い出していた。あの杖のようなもの……確か、あれは。


「そうか、分かったぞ。これも『銃』なんだ」

「なによ、知ってんの?」

「過去に転生者が作ろうとして失敗した武器だ。異世界でもこれとは大分形が違う……こんなレンコンがついてなかったのを見た。でも、アレはちゃんと成功してたぞ?」

「形の差異は知らないけど。異世界だからじゃないの?」


 そう、世界が違えば法則が違う。リンゴは辛いかもしれないし、しょっぱいかもしれない。

 火薬なんてものは存在しないかもしれないし、知っている作り方通りにやっても何か知らないものができるかもしれない。

 銃を作っても、それは何か知らない法則によって使用者を殺すかもしれない。

 魔法などというものがある世界で、魔法というものがない世界の法則がそのまま通じるかもしれないというのは、あまりにも希望的観測が過ぎる。

 だから、キコリが行った異世界で「銃」を作れたとしても、この世界では作れなかった。

 ただそれだけの、簡単な話であるのだ。オルフェのそんな説明に、キコリも納得する。

 確かにその通りだ。今人間社会に流通している異世界のそれを再現したと思われるマジックアイテムたちも「機能を再現」しただけであって仕組みを再現したわけではない。

 ならば、銃とやらもそういう風に作れば再現できたのかもしれないが……。


「鉄の塊を飛ばす武器、か。ゴブリンなら通じるか?」

「転生ゴブリンの使ってた石投げ器の方が強いんじゃない?」

「……かもな」


 異世界の銃遣いは何かしらの魔法らしきものを組み合わせていたが、この世界で銃を作れたとして、同じ技術が発達するだろうか?

 それに威力の問題もある。そういった諸々を考えると……あまり上手くいきそうにはない。


「そう考えると、なんで作ろうとしたんだろうな……こんなもんを、さ」

「さあ? でもどうであるにせよ、これは危険物の山ね」

「確かにな」


 使うと死ぬ危険物と、その試作品の群れ。そんなものを放置しておくわけにもいかない。

 ならばどうするか……話は簡単だ。


「ブレイク」


 キコリの破壊魔法ブレイクが、その手の中の銃を原型が分からないまでに粉々に破壊する。

 そうして全ての銃を破壊し終われば……それで、今後誰がこの場に来ても、危ない道具を持ち出すことは出来なくなったのだ。

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