当然下心はあるさ

 目を覚ます。

 緑の匂いの濃いその場所は、ベッドなどでは断じてない。

 慌ててキコリが起き上がると「おっ」と声が上がる。


「目ぇ覚めたか。感謝してくれよ、ポーションだってタダじゃないんだ」

「えっと……ありがとうございます」

「うん、お礼は大事だな。金で示してくれるとさらに嬉しい」


 そんな事を言ってくる相手は……モフモフの猫が装備を着けて2足歩行しているような、そんな感じの見た目だった。

 そして確かに身体の痛みがある程度消えている。ポーションを使ったというのは確かなようだった。


「俺はキコリです。貴方は……何て呼べばいいです?」

「んー? 僕はクーン。そう呼んでくれればいいよ」

 

 そう言うと、クーンは自分の前に置いていたキコリの斧と丸盾、それとホブゴブリンの斧と魔石を示してくる。


「ほら、君のだろ。他に散らばってた細かいのは、その辺のゴブリンが持っていっちゃったけどな」

「重ね重ね、ありがたいです」

「いいさ」


 パタパタと手を振ってくるクーンをじっと見ながら、キコリは斧を2本背負い、丸盾を着け……ちょっと考えてからホブゴブリンの魔石をもう1個取り出し、合わせて2個をクーンへと差し出す。


「これで足りるか分かりませんが、ポーション代です」

「うん」


 クーンは魔石を受け取ると、キコリをじっと見返してくる。


「もしかして獣人を見るのは初めてかい?」

「えっと……はい」


 クーンは茶褐色の毛並みをしていて、顔はかなり猫に近い。

 装備はキコリと似ているが、腕や足の動かしやすさを重視した構成になっているようだった。

 そして何より……武器であるらしい鉄の棒……いや、鉄杖というのだろうか?

 そんな武器が印象的だ。


「そっか。あとまあ、恩人という立場ではあるけど……敬語は要らないよ。たぶん僕は君と同じくらいだ」


 そう言って立ち上がると、クーンはニカッと笑う。


「僕は戻るけど、君はどうする?」

「戻るよ。まだ体が痛い」

「そうだろうね。飲ませたのは所詮1000イエンのポーションだ」

「……どうして俺を?」

「助けたのかって? 当然下心はあるさ」


 まあ、そうだろうとキコリは思う。

 瀕死のキコリにポーションを使って、起きるまでアイテムごと見張っている。

 しかも魔石まで回収してくれている。

 そんな事を、ただの好意でするはずがない。


「そう警戒するようなことでもないさ」


 クーンと共に森を出ると、もう日が落ちかけていることが分かった。

 英雄門はまだ閉まってはいないが……急いだほうがいいだろうか?


「まあ、一晩考えてくれていいんだけどさ」

「ああ」

「僕と組まないか? そろそろ1人じゃ辛くなってきてるんだよね」

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