本当に凄いや

「……組む?」

「うん」


 思わず足を止めて、キコリはクーンに聞き返す。


「どうして俺と? 言っちゃ悪いが、俺は死にかけてたんだぞ?」

「なんだ、僕と組むのは嫌か?」

「理由が分からないから混乱してる」

「なるほどなあ」


 ニャハハと笑いながら、クーンはキコリの肩をポンポンと叩く。

 手の形は人間に非常に近いが、モッフモフだと、キコリは思わずそんな事を思ってしまう。


「僕が見たところ、君はホブゴブリンを2体ぶっ殺した。そうだろう?」

「ああ」

「で、あの状況を見るに、他にも何かいたわけだ」

「手甲持ちとハンマー持ちがいた」

「へえ! それ相手に生き残ったのか!」


 凄いなあ、とクーンは本当に感心したような表情になる。


「その手甲持ち……賞金首だよ? 本当に凄いや」

「……え?」

 

 賞金首。つまり冒険者ギルドの依頼の中にあったということだろうか?

 確か初手に金的を入れて仕留めるのに失敗した奴だ。

 しかも逃げられている。


「……そいつの賞金って幾らなんだ?」

「え? 確か……5万イエンかな」

「マジかー……」


 へたり込みそうになったのを、キコリは根性で我慢する。

 5万イエン。あの時仕留めるのに成功していれば、5万イエン。

 大儲けなんてものじゃない。その賞金があれば……。


「……ヘコむ」

「あはは、死にかけたってのに元気だなあ!」

「そりゃそうだろ……あと一歩で5万イエンが手に入ってたかもしれないのに」


 とぼとぼと歩き出すキコリの背中に、クーンが「そういうとこだよ」と声をかける。


「ん?」

「君は死にかけてなお、目が死んでなかった。それが出来る人って、珍しいんだよね」

「……そうか?」


 それしか生き方がなければ皆そうなるんじゃないだろうか。

 そう思うキコリだが……「そうだよ」とクーンは返してくる。

 足を速めてキコリの隣に立ち、そのまま2人で英雄門を潜って町に戻る。


「しかも次から安全策……じゃなくて手に入ったかもしれない大金を惜しむ。大物だよ、君」

「褒めるなよ。散々才能ないって言われてるんだ」


 それに無茶をする気なんてない。キコリは、自分の手の届く範囲でしかやる気はない。


「それに、言っとくけど俺は命知らずの冒険野郎じゃないぞ。自分が慎ましく暮らせる程度の金を稼ぎたいんだ」

「そりゃ僕も同じさ。でもそれをしようと思ったら金が要る。君だってソロの限界を感じたはずだ」

「……」


 否定はできない。あの時仲間が1人いれば、今頃5万イエンはキコリのものだったかもしれない。

 しかし、クーンの実力はどうなのだろう……?


「お、僕の実力を疑ってる目だな?」

「いや、あー……ああ。正直疑ってる」

「大変正直でよろしい。それじゃ組むか組まないかは別にして、明日冒険者ギルドで待ち合わせしよう」

「何するんだ? 手合わせとか?」

「その通りさ。僕がどれだけやれるのか、見せてあげるよ」

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