有り得ないから
と、そこでキコリは気付く。1人、足りないのだ。
「……そういえばフェイムは?」
「ああ、あの妖精なら」
ドドが言いかけた直後、遠くから「きゃー」という悲鳴が聞こえてくる。
直後、遠くの空で炸裂する魔法の光も。そして飛んでくるのは……大笑いするフェイムだ。
「ワハハハハハハハ! やってやった! やってやったぞ! 奴の尻をこの剣で刺してやった!」
「……アイツ、怪我とかなかったのか?」
「分からんが、ずっと気絶したフリはしていたな」
「あの防具のせいかしらね」
戻ってきたフェイムはキコリたちの元まで戻ってくると、剣を顔の前に構えてみせる。
「フッ、女王陛下の騎士として憎き仇敵に一矢報いてきた。騎士の責務は果たされたと言えよう」
「お、おう」
妖精のサイズのせいで針よりはマシだよね程度の剣だが、それで尻を刺したら責務が果たされたことになるのだろうか? キコリは疑問だが……気になって聞いてしまう。
「妖精って魔法が得意だよな? そっちの方が」
「そんなもん撃って本気で殺しに来られたら怖いだろう」
「あ、嫌がらせだって自覚はあるんだな」
「騎士は良い加減を知る者なのだよ」
キコリは黙ってオルフェに視線を向けるが、オルフェは黙って首を横に振る。
「まあ、そこのそいつはほっといて。アレは放っておくと不味いわよ。理由は分からないけど、こっちの動きがとんでもない精度で察知されてるわ」
「しかもこっちに明確な殺意がある……向こうが態勢を整え直す前に叩きたいけど、な」
正直な話、それが出来るかどうかかなり怪しい。まるで未来でも分かっているかのように的確過ぎる襲撃だった。正直有り得ないとキコリは思う。
「……未来、か」
「は? 未来がどうしたのよ」
「そういうのが分かる魔法をアイツが使えるとか、そういう可能性はないか?」
「アタシはその『アイツ』を見てないんだけど……たぶん女トロールの話よね?」
「ああ、確かトロールハイプリエステス……だったかな?」
言われてオルフェは「んー?」と考えこむ。
そもそもトロールのことなんかオルフェは詳しくはないが、少なくともトロールの進化したものであることは確かだ。
「姿は人間っぽかったな。あと上着は白くて紺のスカート……だったかな? 杖持ってて魔法を……」
「はあ? 魔法?」
「な、なんだよ」
「トロールに魔法使い? そういえば、それも変な話よね」
トロールはハッキリ言えば、そんなに頭は良くない。
オークと比べると知性に欠けていて、恵まれた体躯でゴリ押しする種族だからだ。
魔法を使う頭など、ないのだ。女トロールだから……という可能性もあるにはあるが、恐らくはあのゴブリンと同じで転生者だというのが鍵になっているのだろうとオルフェは思う。
「……あ、それと未来がどうこうなんて魔法、有り得ないから」
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