言うべきことを言う相手

 それから数日。フレインの町に戻ってきたキコリは、飛ぶように走ってきたアイアースに思いっきり抱き着かれて倒れそうになり……なんとか踏みとどまる。

 勢いは「人間レベル」に手加減されてはいたものの、その中では正しく最高レベルの抱き着きタックル。走ってくるアイアースを見てキコリが身構えていなければ、路上に押し倒されていたかもしれない。しかしそれだけに、アイアースの喜びっぷりがキコリにもオルフェにもよく伝わってきていた。


「ハハッ、ハハハ! よく生きて帰ってきたなあ!」

「アイアースも、無事でよかったよ」


 そんなに生きて帰ってきたことを喜んでくれるのか。そう思うとキコリは「やはりアイアースは良い奴だ」となんとなく暖かいものを感じるのだが……次に出てきたアイアースの言葉は、少しばかりアレなものだった。


「なぁに言ってやがる! 俺様は無事に決まってんだろうが! それよりお前だよ! よくやった! 此処に帰ってきたってことはドンドリウスの野郎をブチ殺してやったんだろ!?」

「あ、いや。殺すつもりではやったけど殺し切れなかった」


 キコリが正直に答えれば、アイアースは見るからにテンションの下がった顔になるが、その隙にキコリはアイアースを引き剥がす。さっきからオルフェの視線がなんだか痛いのだ。


「無理だったかー。しかしそうするとアレか? アイツ、あそこまで頭茹ってたくせに冷静になったのか?」

「たぶん、そうなんだろうな……ていうかアイアース。アレは殺せないだろ。本体とかいうの粉々にしても別のが生えてきたぞ」

「本体ィ?」


 キコリとしては全力でやった。やったが、あそこまでやって本体を倒しても別のドンドリウスが生えてくるというのであれば、文字通り不死に近いとしか言いようがない。

 そうキコリは思うのだが……アイアースはなんとも微妙そうな表情になっていた。


「お前が言ってんのってアレか。クソデカ巨大ゴーレム。いい加減土に還ったかと思ってたんだが」

「ああ、それだよ。ドンドリウスも本体だって言ってたぞ」

「バァカ。どんだけ素直だ。ありゃドンドリウスの野郎が作った身体の1つだぞ。すんげえ昔に作ったらしいけど本体じゃねえよ」


 言われてキコリもオルフェも、思わずポカンとしてしまう。

 そういえば確かにキコリが「本体か」と聞いて「真の姿というべき」とか答えていたが……まさか。


「え、いや。ええ? 真の姿とか言ってたぞ……それって本物ってことだろ?」

「そうとも限らねえなあ。本体だったら『元の姿』とかなんじゃねえの?」

「……確かにそうだな」

「何なのアイツ。てことは最初から最後まで戯言しか言ってないじゃない……」


 オルフェも思わず全身の力が抜けたようにそう呟くが、アイアースは軽く肩を竦めるだけだ。


「俺様から言わせればな、シャルシャーンと一番似てるのはたぶんドンドリウスの野郎だ。ヘラヘラしてるかしてねーかって違いはあるけどな。どっちがマシかは分かんねえ」

「シャルシャーンのほうがサッパリしてる気はするんだが」

「素直さで天下獲る気か? サッパリして見えんのは外面だよ、外面。一番古いドラゴンがサッパリ爽やかなわけねえだろ。そういう風にするのが当たり障りないってだけだろ」


 まあ、そうかもしれない。襲ってきたほうのシャルシャーンのことを考えるとキコリとしても納得いく部分はあるのだが。


「ま、それについてはひとまずいいか。それより……」


 どうせシャルシャーンは用事があれば勝手に出てくるだろうし、そうでなければ会うこともないだろう。そんなことよりも、キコリとしては言うべきことを言うべき相手がそこにいた。


「ドド、ただいま。無事でよかった」

「ただいま。ほんと、無事でよかったわ」

「ああ、お帰りだキコリ、オルフェ。ドドも、キコリたちが無事でよかったと思う」


 もう1人の仲間、ドドと再会の挨拶を交わし合う。それは、このフレインの町を、そして「創土のドンドリウス」を巡る1つの冒険が終わった、その儀式であり証でもあった。


「ま、とりあえずコレでこの町の問題とやらは解決だろ?」

「だな。あとは報告をしておかなきゃだけどな」

「そんなの後でいいだろ。報告が欲しけりゃ向こうから来るっての」

「いや、そういうのは……」

「真面目な奴だなあ。じゃあいいや。さっさと報告しに行くぞ。その後はなんか豪勢な飯でも食おうぜ?」


 まあ、それについてはキコリとしても異存はない。アイアースにも散々世話になったのだし、幸いにもお金はある。今日はパッと贅沢をするのも充分にアリだろう。


「よし……じゃあ行くか!」

「おう、行くぞ!」

「ちょ、待ちなさい!」

「元気だな。いいことだとドドも思う」


 そう言い合い、笑いながら4人は領主の屋敷へと進む。そこには、確かに喜びだけがあったのだ。

 苦労を乗り越え、絆を結んだ……そんな尊いものを確かめ合うように。

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