これからはもっと

 ちなみに、似たようなことを考えているのはキコリもであった。

 色々な出会いも別れもあった。あったが……オルフェに出会えたことは、1つの奇跡であった。

 死にかけることが非常に多いキコリだが、もしオルフェと出会っていなければどうなっていたか。

 何度も自分の中で繰り返したその問答を、キコリは再度繰り返す。

 命の恩人。そんな言葉では収まらないだろうが……それ以上にキコリにとってオルフェは、大切な相棒であった。

 

(オルフェがいなかったら、俺はとっくにダメになってただろうな)


 オルフェは口が悪い。とても、とても口が悪い。けれど、妖精らしくとても素直だ。

 キコリのためを思って怒ることも多く、キコリの代わりに怒ることもよくあった。

 先程のドンドリウス相手の時にもそうだった。そしてキコリは冷静な自分を取り戻せる。

 それだけではない。それだけなら、きっと他の誰かにも出来ただろう。

 けれど、オルフェは自分の意志でキコリの側を離れたことはなかった。

 いつも、いつでもキコリの側でキコリを支えてくれていた。

 キコリ自身がオルフェにしてあげられたことなど、そう多くはないというのにだ。

 

「オルフェ」


 だからキコリは今この瞬間、それを言葉にしてみようと思った。久しぶりに2人で歩いている、この時だからこそ……だ。


「ん、何?」

「ありがとう」


 キコリが言うと、オルフェはその場に静止し、キコリの顔をじっと覗き込んでくる。

 突然何を言うのかと言いたげな表情で、オルフェは「突然何よ」と。その表情に書いてある通りの台詞を投げ返してくる。それがキコリにも読めて、思わずハハッと笑ってしまう。


「いや、なんとなくだけど……今言うべきなんじゃないかって思ったんだ」

「ふーん?」


 オルフェはその言葉を咀嚼するように顎に指を当て、何かに思い至ったように頷く。


「うん、分かったわ。ヴォルカニオンの話したから、今までのこと思い返してたんでしょ」

「あ、ああ」

「で、その中であたしの有難さに再度思い至ってお礼を言いたくなった、と」

「まあ、大体そんな感じだな」

「でしょ? アンタの考えてることなんて、もう大体分かるんだから」

 

 アハハッと声をあげて笑うオルフェに、キコリもつられて微笑む。

 いつも通りのその笑顔。それが、とても可愛いと、そんなことを思って。


「可愛いな」

「は、はあ!?」


 思わずそう口にした上に、オルフェにバッチリそれを聞かれてしまった。

 キコリとしては特に意図せず口から飛び出た言葉なのだが、聞かされる方はそうはいかない。


「い、いきなり何のつもりよ! アンタ今までその類のこと一切言わなかったでしょ!?」

「え……そうなのか?」

「そうよ」


 キコリの反応にオルフェは冷静になったのか、赤くなっていた顔の、その赤みが次第に冷めていく。そうなればキコリも流石に「やらかした」と思うが、もう遅い。

 ジト目で睨んでくるオルフェからそっと視線を逸らすが、そこにオルフェが回り込んでくる。


「突然何をいうかと思えば……思ったことそのまま口に出したわね」

「ん、まあ、ああ。でも、嘘はついてないぞ?」

「そうね。突然そんなギャグ言えるほどアンタが器用だったら、逆に驚くわ」


 言いながら、オルフェは大きく溜息をつく。怒ってはいない。それだけはキコリにも分かった。


「だから、嬉しかったわ」

「……なんか、ごめんな」

「別に。これからはもっと、そういうの言いなさい」


 ああ、と。そう頷くキコリにオルフェが見せたのは……ちょっと照れたような、しかしとても魅力的な笑顔だった。

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