人間モドキ

「凄い……」


 キコリは思わずそう呟いてしまう。壁の高さでいえば防衛都市にも劣らず、建物の美しさでは今まで見たどの建物よりも素晴らしい。

 緻密に計算された芸術品のような都市。それがキコリの素直な感想だった。

 視線の先にそびえたつその都市は、門が開かれているが……はたして入っていいのかどうか?

 少なくとも、創土のドンドリウスがいるとされる場所はもう少し先のはずだ。

 しかしドンドリウスに関する話を聞くに、あんなものをドンドリウス以外の何かが作ったとも思えない。


「地図が間違ってた可能性は……」

「あるでしょうね」

「だよな」


 あくまで「居ると思われる」場所な上に帰ってこないのだから、当然ズレはあるだろう。

 おまけにドンドリウスが建築好きであるのならば、これと似たようなものだってあるかもしれない。まあ、そう考えると此処にもドンドリウスがいるかは不明になるのだが。


「ま、行ってみりゃ分かるだろ」

「そうだな」

「最悪アレを吹っ飛ばせばキレて出てくるだろ」

「いや、それはやめてくれ」


 止めないと本気でやりそうなアイアースをキコリは「絶対にやめてくれよ」と頼むが、アイアースは「おう」と不安そうな返事を返すだけだ。

 まあ、しつこくしてもへそを曲げそうなのでキコリはアイアースの善意を信じることにして都市へと歩きだす。

 普通に考えれば、あの城へと向かうべきなのだろう。

 デモンも出てこないまま、キコリたちは門の前へと辿り着く。

 開いたままの門はサビ1つなくそこにあり、いつでも動かせそうですらあった。


「……まさか入ろうとしたら閉じて潰しにくるみたいな」

「やめてよ。ほんとうにそうなったらどうすんのよ」


 言いながらキコリたちは門から中に入るが、当然門が閉まることもなければ何かの罠が発動することもない。そして……門の先にあったのは、整然と建物の並ぶ街並みだ。綺麗に敷かれた石畳と、統一された規格の建物たち。そして……。


「なんだアレは。人間、か?」


 そう、ドドの言葉通り人間に見えるものが何人もいた。

 店の中に、そして道路を歩いているそれは人間? いや、違う。人間のような「何か」だ。

 見た目は人間そのものにも見えるが、視線が合わない。

 そして何より……何処か人形的だ。見た目だけを人間に似せた人形が歩いているという風に見える。


「人間じゃない。ゴーレムか何かなのか?」

「試してみましょうか」


 オルフェが適当な人間モドキの眼前へ近づくと、その人間モドキはピタッと停止する。

 そして、口を開きスッと手をあげる。


「やあ、こんにちは。良い天気だね」

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